複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.298 )
日時: 2013/02/06 14:44
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



43・A liar does not know a tear.


「雪羽は無事なんだろうな?」

ロムの左肩を治療しているところをソウガは楽しそうに見守っていた。

俺は治癒魔術が苦手だ。多分この苦手は俺の体質からくるのだと思う。
もともと俺は母さんには全然似ていなかった。
母さんが得意としていた封印を解く魔法や逆に封印をする魔術、それから力を呼び起こす魔術のような儀式魔術は全然できなかった。今でも少ししかできない。その少しすらも母さんの魔力を体に無理矢理に植えつけたから手に入ったものだ。
母さんの魔力を体に植え付けられて得意になったのは岩花火などが属している攻撃魔術。人を傷つけるだけの魔法。そんな事しかできない俺が本当に嫌で。人を傷つけることでしか人を守る事ができない自分が本当に嫌いだ。
母さんは自分の魔力を信じていた。だから自分のしたいことをしてきた。まっすぐにしていた。
だから俺もする。自分のしたいことをする。俺には母さんがくれた魔力がある。傷つけることでしか守れなくても。それを達成できなくても俺は迷う事なんかしたくない。
俺が迷うことでアスタリスクが喜んでいるような気がする。もともとグズグズだった俺の人生をもっとかき回したアスタリスクは、今どうしているだろう。
かき集めた被験者の体をまだいじくって楽しんでいるのだろうか。
そんなアイツに復讐はしたくない。俺には銀が居る。ムーヴィが居る。アシュリーだって居る。でもあいつにはいない。誰も居なかった。俺たちでさえアイツを嫌っているのだから、アイツを好きになっていて近寄っている人間なんか居なかった。
アイツに同情しているのかもしれない。アイツは自分に似てひとりだった俺たちを壊して自己満足で心臓を満たしているのかもしれない。アイツの中に入って光を放つ冷たい心臓は、今でも乾いているのだろうか。
いつか、俺にとっての銀たちのような存在がアイツにも現れると良い。そうして、アイツにも光が見えると良い。アイツの人生も潤うと良い。
アイツが何に心を壊されたのか俺は知らない。すごいことがあったのだろう。
俺には想像もできない何かが。想像もしたくないような何かが。

「多分無事でしょ。俺はあいつになんか興味ないよ。俺が興味あるのはパルちゃんだけなんだよ?」

治療を終えて俺はロムから離れた。
俺が下手糞なせいで方は軽く赤くなっているけれど、無事に肩の形は戻ったし問題なく動かすことができるだろう。
俺はソウガから距離を取りながらそいつを睨んだ。

「つれないなぁ……そっちの方が俺はいいけど」

ソウガのマリンブルーの瞳は美しく光を反射する。でもその瞳の奥底で何かが眠っていることは確かだ。

コイツは嫌なくらい素直で、そしてさびしいくらいに嘘吐きだ。


〜つづく〜


四十三話目です。
お久しぶりかな。ちょっと期間がありましたね。