複雑・ファジー小説

Re: 赤。【題名を変更するかもです】 ( No.3 )
日時: 2012/05/09 20:40
名前: 揶揄菟唖 (ID: LQdao1mG)

3・赤、黒を知る。


帰ってきた私を見て、おっちゃんはしばらく口をぽかんと開けていた。

そりゃあそうだ。

森に行って、薬草を取ってくるだけなのに、酷い傷を負って帰ってきたのだから。

驚くのも、無理はない。

「あ、そうだ、これ」

あいかわらず私の左腕を見つめているおっちゃんに薬草を押し付ける。

「あ、んた、大丈夫なのか……?」

大丈夫?
そう聞かれれば大丈夫ではないのが本音だ。

ギガントと向かい合っているときは怖くてたまらなくて、痛さなんかに構っていられなかった。
あの人に会って、あの人がギガントの首を叩き斬ってくれた後はほっとして傷を負っていたことを忘れていた。
だから今が一番痛い。
ありえないくらい痛い。
脂汗が止まらない。

「んー、まあまあですかね」

強がって私は無理矢理口角を上げて笑う。

「それに、その背中の……」

おぉ。

今度は私が驚く番だった。

「おっちゃん良く分かりましたね〜」

まぁおっちゃんはきっと長いこと武器を売っているのだろうし、分からないほうが可笑しいけど私は嬉しくなって背中からそれを両手に持ちなおす。

たからかに持ち上げたいところだが、重い。

ちゃんとした武器なんて使ったこと以前に持ったことがない私にとって両手で持つのが限界だった。

よくあの人は振り回していたなぁ。

「ハラダ・ファン・ゴのヤツか……」

おっちゃんが身を乗り出してきたので持たせてあげる。

装飾が美しい鞘から刀身を抜き出すとおっちゃんがうっとりしたように歓声を小さく漏らした。

「で?」

「で?」

おっちゃんが変なこと言い出したので良く解らず首を捻る。

すると、おっちゃんは片手に握られているそれを指差した。

「いくら欲しいんだ?」

それはきっと私がこれを売りにきたのだと思っている言葉。

「う、売りませんよ!」

?

私は何を言っているんだ?

あの人からこれを土下座してまで譲ってもらったのは売るためだったはずだ。

なのに、私は何を考えているんだ?

「そうか、てっきり売るんだと……」

しぶしぶと言った感じでおっちゃんは私にそれを返してきた。

持っていたってしょうがない。
私なんかの初心者がこんなものを使う権利なんてない。
けど。
なんか、手放したくないんだと思う。
なんでかは、わかんないけど。

「あぁ、そうだ」

すっかりテンションが下がっていつもの不機嫌そうな顔に戻ったおっちゃんが少しだけ眉を上げた。

「あんたがここをでていった後、この町に『赤いうそつき(レッドライアー)』が来てあんたが行った森に入っていったぞ」

レッドライアー?

「誰?」

おっちゃんの顔がまた歪む。
驚いたような、あきれたような表情。

「しらないのか……。有名なハンターだよ」

おっちゃんが丁寧にそのレッドライアーの容姿を説明し始める。

ふんふん。

黒い服で?
背はそんくらいで?
男で?
赤い目で?

「……赤い髪……?」

 + + + +

前髪を引っ張って、太陽に照らす。

思えば、なんであの女を助けたんだ?

自分でも分からない。

俺は何がしたかったんだろう。

緑の中で見えた不釣合いな正反対の色、赤。
それが見えてなんだろうって思った近寄った。
ら。
女が1人短いナイフを握ってギガントとタイマンはっていた。

おいおい。
そんなんで勝てるわけないって。
ヤられるぞ。
足ガタガタじゃんか。

なんて思っていると、ギガントが動いた。

その女はナイフを振り上げる。

うん。
タイミングは悪くない。
でも、勝てない。

だから頭をフッ飛ばしてやった。

いくらその女が赤くたって目の前で死なれるのは気分のいいものじゃない。

俺が嫌味っぽいことを言っても、そいつは初めに礼を言ったりした。
1人で興奮して、焦って、俺の武器を譲ってくれって土下座したり。
変な女。

あと。
最後にいったあいつの言葉。

『綺麗な赤色の髪ですね』

その言葉は。

太陽で光る俺の髪。

黒い手袋とは決して調和しない色。

「……きったねー色」


〜つづく〜


三話目ですね。
今回も長くなってしまいました。
のろのろと話はすすんでいるはずです。


next⇒赤、黒を追う。