複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.300 )
日時: 2013/02/08 17:11
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



45・Old oneself is the present enemy.


「んじゃ、そろそろ時間だから」

言いながらソウガは壁に掛けられている時計を確認して、俺の手首を掴んだ。抵抗するのなら折るつもりだろう。そう思うくらいには力が入っている。
俺はバカじゃないから抵抗しようとは思わない。
それに、俺はここから出ることができる。それを確信しているから。銀たちが助けに来てくれる。俺をまた導いてくれる人が居るから。絶対に俺はまた光を浴びることができる。その安心が俺を包んでくれている。それだけで俺は安心して瞼を閉じる事ができる。
たった。たった、三人。三人だけの命。
その命は世界に愛されるものじゃあない。生き続けて歓迎されるものじゃない。きれいな命を踏みつけて存在しているものだけど。
それでも俺はいい。それでも俺にとっては大切な物だから。

俺が抵抗しないのをつまらなそうな顔をした。
反応をしない。返してやらない。何をしてもきっとコイツは楽しんで俺を笑うから。

昔の俺に、似ていると思う。
母さんに評価をしてもらいたかった。母さんの息子にふさわしい俺で居たかった。そのために魔力を体の中に取り込んで、それを幸せだと唇を震わせる俺に似ていると思う。
コイツは自分を知らない。自分の本音を聞く耳をつぶしている。絶対のそうだ。
俺と同じならそうに違いない。
助けてやりたいとか。本当はそんな事は思ってはいけない。でも、幸せになってほしい。だって俺はこんなに幸せになれたのだ。こんなに幸せで、こうやって明日の朝を待っている。

俺を連れて歩き出すソウガ。
俺はその背中を見上げて、逸らさなかった。逸らしたくなかった。
誰かがコイツを認めてあげないと、コイツを見て上げないと、コイツは壊れてしまうような気がしたから。

コイツの右耳のピアスは赤色だ。
赤色を見ていると雪羽を思い出す。赤いジャージに身を包んでいた雪羽。持ち物がすべて赤色だった雪羽。
そして、美しい黒い髪と黒い目。
アイツは、ここに居るべきじゃあ無い。アイツは普通に生きるべきだ。
雷暝と出会うべきじゃなかった。雪羽と雷暝が出会う羽目になった理由はなんだろうか。
そんなことは考えて仕方ないのだけれど。

「その女のところに連れて行ってあげる」

「え?」

魔の抜けた声を出した俺を振り返って着たソウガは楽しそうに笑う。また喜ばせてしまった。
マリンブルーの瞳をゆがめて、美しい紺色の髪を揺らすソウガは結構顔が整っている。

「二人でゲームが始まるのを待っていてよ」

そういうことだ。
ゲームは、銀たちがここに来たところから開始される。そしてその現場を、俺と雪羽は見なくちゃいけないのだろう。

俺はソウガを睨んでやった。
昔の俺に負けたくなかった。


〜つづく〜


四十五話目です。

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次は三百話を目指します!!
私はまだ生きています!!