複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.301 )
日時: 2013/02/09 14:24
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



46・Believing is help.


「パルさん!」

レジルが私のそんなお願いをしてからしばらく経ったとき、マリンブルーの瞳の男に連れられてパルがやって来た。
マリンブルーの男はパルを部屋の床に突き飛ばし、つまらなそうに唇をとがらせる。床に倒れたパルに駆け寄ってマリンブルーを睨みつけることも考えたけれど、やめた。そんなことをしたって、マリンブルーは何とも思わないだろうから。
私の手を取ってパルが立ち上がる。
マリンブルーは本当にどうでもよさそうに私を見て、吐くようにつぶやいた。

「じゃあ、迎えにくるまでじっとしておいて」

私とパルが答える前にパルはドアを閉めた。
監視は付けないようだが、私とパルはお互いの顔を見合って確信した。言うことを聞くことにする。そりゃあ、私は逃げたい。自分の力で逃げたい。
でも、パルはそんなことを考えていない。パルは仲間を信じている。みんな無傷でここから出ることができると信じて疑っていない。
なら、それでいい。人を信じることは怖い。
いつか、人を信じて麻薬を売りつけられそうになった時に知った事。人を信じることはとっても穏やかな事だけれど、でも同時に怖いことでもある。
そのことを知っているはずなのに、パルは仲間のことをまっすぐに信じている。怖くないのだ。怖くなんて無いんだ。この人にとって、仲間を信じることはこの人の存在を証明する事なのだ。
私は何も言わなかった。言いたいことはたくさんあった。でも言ったらこの人はきっと困るから。私が今言いたいことは謝罪でしかないから。
人を困らせたくない。

「大丈夫、そうだな」

私が身にまとっているドレスを見て一瞬不安そうにはしたが、パルはそういった。力強くうなずき、彼をベッドに座るように促す。
服が変わっていることで乱暴をされた事を想像したのだろうが、私にとってその行為が傷になることは無い。私はその行為をすることに全く抵抗が無い。逆に、それで許してそれで済ませてくれるのなら私はすんなり体を差し出しているし。
行為をすることで手に入るものは無い。何もない。

お父さん。
頭の中でお父さんのことを思い出す。
私に謝り続けたお父さん。ずっと私を見ながらしてくれたお父さん。
怖くなんてなかったよ。痛くなんか無かったよ。初めてで、行為の仕方だって意味だってわからなかったけれど。でも、嬉しかった。
お父さんの体温がすごく心地よかったことを、今でもこうして穏やかな気持ちで思い出すことができる。

「俺も問題ない。大丈夫だ。絶対にここから出られる。俺が、俺の仲間が保証する」


〜つづく〜

四十六話目です。
260話です。