複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.302 )
日時: 2013/02/09 17:54
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)



47・What cannot be protected alone.


しばらく歩いた先に、ドームのようなものが見えてきた。

雷暝の提案したゲームの舞台。
何度か訪れたことはあるが、こんな形で招かれたのは初めてだ。
みんなでそれを仰ぎつばを飲み込む。

雪羽に怖い思いをさせてしまった。本当に申し訳ないと思っている。
アイツは、俺と出会わない方がよかったんじゃ無いだろうか。俺と出会わずに、ああやって前みたいにのんびりと地味に生きている方がアイツにとっては幸せだったんじゃないだろうか。
言ってみたい。でも言いたくない。それでもしアイツがそれを認めたら。俺ともう一緒に居たくないなんて言ったら。それは困る。俺はあいつを縛らなくちゃいけなくなる。俺はあいつがどうしても欲しい。アイツを側に置いておきたいと思う。だから無理矢理にしないといけない。そんなことはしたくない。
できれば、アイツは何も知らないでいてもらいたい。
アイツが知りたいのなら答えてあげたい。

何時から、俺はこんなにアイツのことを考えるようになったのだろう。
アイツの黒髪があれば、アイツの黒目があれば、良かったのに。

「急ごう!」

燕も真剣な表情だ。全く緊張をしているそぶりを見せない。
俺は謝らない。そう決めた。いくらコイツ等の中の誰かが傷つこうと、それは俺の責任じゃない。ここまでついてきたコイツ等の責任だ。
こう考えることをするのは得意じゃない。いやでも自分の責任にしてしまう俺の面倒な性格を持っていると、謝らないと決めても絶対後悔とかしてしまうだろう。

「分かってる! 行くぞ! おいなにしてるんだよライアー!」

すっかり俺のことを警戒しなくなった達羅は俺の手を引っ張った。

俺は恐れているのかもしれない。一歩を踏み出すのが怖いのかもしれない。
いやだと思う。こうやって謝らないと決めた。でも怖い。ジャルドが、カンコが、アスラが、燕が。傷つくのが怖い。

唇を噛み締める俺の左手を取ったのは、アシュリーだった。
彼女の瞳は強い光を発している。発光しているかのような深い色合いに眩暈すら覚える。
達羅とアシュリーが俺の手を引いて歩き出す。それだけで俺はあっけなく一歩を踏み出した。
みんなが待っている。
俺は悩んでばかりだ。悩んでばかりなんだよ。

「待ってるんだろ。お前の仲間も、お前のことを待っているんだろ。なら行くしかないだろ。悩んでいる暇なんかないんだよ」

顔を上げると、黄色の瞳と青い瞳を併せ持つ男が仁王立ちをしていた。
視線を巡らせた。
アスラが呆れているような顔をしていた。ジャルドが珍しく笑っていた。カンコが俺を見つめていた。燕が準備運動を始めていた。

そうだよな。いちいち考えていたって仕方がない。もうここまで来たんだし。
それに、それに、雪羽だって待っているのだから。

俺はちゃんと歩き出した。自分の足で歩き出した。

「あぁ。ムーヴィ、ありがとう」

悩みたくはない。立ち止まりたくはない。
戦いたくはないが、守りたい。
だから。
だから、ごめん。
雷暝。
俺はお前に勝つつもりでいる。


〜つづく〜


四十七話目です。
長くなりそうだと最近になってやっと気づきました。