複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.307 )
- 日時: 2013/02/14 17:11
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: KRYGERxe)
50・Meaningless curiosity can be killed.
「ソウガ」
彼の名前を呼んでみせると、紺色の髪を揺らしながら振り返ってきて笑みを浮かべた。弧を描く形の整った唇と、細められた少し切れ長のマリンブルーの瞳。
俺に声を掛けられたのがそんなにうれしかったのか、彼の笑みは崩れることを知らなかった。体まで向き直り俺の言葉を待って居る。
俺は白衣を握りしめて、彼のマリンブルーの海を見つめ返した。
誰もいない廊下。
広いだけのこの建物に住み始めてもうどれくらい経っただろうか。住民は減少と増加を繰り返し、ロムとヒダリ、ソウガと俺、そして雷暝様とガーディアンだけになった。
そして、今回のゲームで負けた人間が減る。
誰も負けなければ良い。誰も死ななければいいのに。そんなことを思ってはいけない。俺は俺の勝利だけを信じていれば良いのだから。
そうだろ。そうじゃ無いか。
今頃グダグダ考えたところで、何も変わることは無いのだ。
雷暝様を変える事なんかできない。だって雷暝様は世界を変える。その前に彼は俺たちの世界を変えている。
雷暝様ならできる。この世界を変えることくらいたやすい。
そう信じて疑っていない。
「俺はここに来る前、科学者だった。魔術を超えようと思って発明繰り返して。そんなことで毎日過ごしてた。なぁ、ソウガ。お前、なんでここに居るんだ? ここに来る前、お前は何をしていたんだ?」
タブーだと思っていた。ここに居る理由なんて聞かれて気持ちのいい物じゃない。俺だって聞かれたくなくて、だから質問をすることは無かった。
でも。でも、気になっていたから。好奇心を殺すことができないのが科学者だから。
ソウガは面食らった表情でその笑顔を崩す。だけれど、すぐにいつもの嘘くさい顔に戻った。
彼の右耳で光赤いピアスの色が、目に居たい。先ほどまで少女が閉じ込められている赤いだけの部屋に居たから。
グズグズと脳みそを溶かすくらいまでに鼓動の振動が響いている。
俺はへんなことを聞いてしまったのだろうか。踏み込んでしまってはいけない領域に達してしまったのだろうか。
でも、俺は引き返したくない。
「レジルがそんなこと聞いてくるなんてなぁ。どうかしたのか? あの女に変なこと吹きこまれた?」
心臓がはねた。一瞬だけ心音が停止したように、血の流れがまき戻ったようだった。
なんで、俺はこんな質問をしたのか。なぜ今まで押し込んで来た質問を今口にしたのか。
答えを出すことができない俺に、ソウガは手を伸ばして髪を撫でた。俺の方が身長は高いのに、ソウガの方が大きく見えた。
「そんなことどうでもいいじゃん? 今は勝って生き残ることだけ考えないと」
まっすぐな黒い瞳。俺を見上げたあの瞳が忘れられない。頭がくらくらする。あの瞳が毒だったのかもしれない。
だから俺は今こんなに落ち着いていないのかもしれない。
〜つづく〜
五十話目です。
チョコ下さい。