複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.308 )
日時: 2013/02/16 12:48
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



51・It leans on a small thing.


「レジルくン?」

俺の質問にさらりと答えて、ソウガはその場を去っていった。アイツは俺の質問に答えたくないらしい。
俺たちは、俺たちのことを知らない方がいい。俺たちは慣れ合わない方がいい。
いつだれが死ぬのかわからない。いつだれと別れるのか、戦うのか、分からない。
そんな不安定な中で距離を近くしてはいけない。そんなことをしても、余計な傷を負うだけ。余計な感情を覚える必要なんかない。

そんなことは分かっていたはずだ。
でも。
でもあの子と話してみて。
逃げるといった。それだけ帰りたい、会いたい人が居るんだ。
俺にはそんな人はいない。場所もない。
でもあの子にはある。少なくとも、自分が傷ついても構わないから、会いたいと思っている人が居るんだ。
彼女はここに居るべきじゃない。俺たちのように、雷暝様のおもちゃになるべきじゃない。
俺がこんなことを考えていると、誰にもばれないと良い。これはいけないことだ。
雷暝様のことだけを考えていればいいのに、余計な感情を持って。彼女に感化されて。

「ガーディアン……どうかしたのか?」

振り返ってみると、小さな体が俺の側にあった。
彼の、いや、彼女かもしれない。迷うほど中性的な顔をしたガーディアンの背中には悪魔の羽のようなものが付いている。
それを時々動かしながら、俺ににごりきった桃色の瞳を向ける。汚れすぎて、もはや桃色とは言えないその瞳。
俺の白衣を引っ張ってガーディアンは心配そうな表情を作る。

「ソウガくんト、何を話していたノ?」

ガーディアンは美しい。穢れを知っている美しさだ。
雷暝様はそんなガーディアンがお気に入りだ。自分で汚したガーディアンを更にいたぶるのが好きなのだ。
雷暝様の歪んだ愛情を受け、取り入れて良く小さな体。少年のようなその体の中には何が眠っているのだろうか。
みんなのことを気遣っている姿勢は悪い意味で俺たちと合わない。

「……俺たちの昔の話だ」

「昔のはなシ?」

言ってから後悔をした。
ソウガにはこの質問をぶつけたけれど、ガーディアンにも同じ質問をする勇気はない。
ガーディアンの過去なんか知りたくなかった。黙りこむ俺をガーディアンは不思議そうに見上げた。

「どうかしたノ?」

なんでもない、すらも言えなかった。

ガーディアンがここに来た日のこと。それは確か、風がうるさい夜の話だった。
雷暝様に連れられてやってきたガーディアンは、今よりもずっと純粋だったかもしれない。いや、ずっとガーディアンは純粋だ。
だから、心配だ。
だってこのゲームで誰かが必ず死ぬ。それが相手に殺されるのか、雷暝様に殺されるのか。分からない。
だから怖いのだ。
無知は怖い。
怖すぎて、ガーディアンを抱きしめていた。

「レジルくン? 大丈夫だヨ。みんながいル。コッチだっていル。だから泣かないデ。レジル君は一人じゃないんだヨ」


〜つづく〜


五十一話目です。