複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.310 )
- 日時: 2013/02/21 16:15
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
53・Suicide wanna-be's testimony.
「雷暝ってどんな奴なんだ?」
ロムが部屋を出ていき、待機するように言われた俺たちは少なくとも緊張して居たと思う。この部屋から出て、勝手に赤女たちを探しに行くことも考えたけれど、そんなことはできない。
俺たちは大人しくゲームの時を待つしかない。
俺が雷暝の知り合いだと知ると、達羅は身を乗り出してそんな質問をぶつけてきた。
彼の瞳の不思議な色合いと、緊張感を打ち破るような態度にため息が出る。
ソファの柔らかい素材に背中を預け、俺は達羅から目を逸らした。
「そう聞かれるとなんて言っていいかわからねぇな」
俺がクオとユコトに御世話になって居る時に、いろんな人に御世話になった。クオは世界の均衡を保つ重要な役割を背負っているから顔が広い。
例えば、クイーン・ノーベル。
人の魂を再び呼び戻す魔術を手に入れ、自身の色を失うことで罰を受けた最強の魔力を誇る魔女。
それと、ゴールデンアームス。
体中の筋力で敵をなぎ倒し、その両腕を武器とする強靭な破壊力を誇る男。
それと、ソルト・ペッパー。
決して人前に姿を現さないが、その名前のみで裏の世界をまとめ上げ、クイーン・ノーベルやクオといった世界の頂点に並ぶ人間たちの信頼を握った人物。
そして、雷暝。
「人間を集めて自分の側に置いてそれを道具として使い、望んだものはすべて手に入れようとする男……」
そうとしか言いようがなかった。
どこか裏がありそうな厚みのある表情と、どこまで続いていくのかわからないほどの闇が広がる瞳。
彼の本心を知る手段は、彼の欲望に触れる事だけだ。
人が押し殺すはずの欲望を滲み出して、それが正しいと信じて疑わない。
少し羨ましいかもしれない。そこまで自分に正直になれることは。俺はうじゅじしてばかりだから。
目を伏せる俺に、達羅とムーヴィ、そしてアシュリーは顔を見合わせた。
「……アスタリスクみてぇだな」
ぼそりと呟かれた言葉に、俺も燕も、ジャルドもカンコも言葉を発したムーヴィに視線を集めた。
その視線を浴びてムーヴィは居心地悪そうに眉を潜めたが、やがて机に重心を預けて瞳を閉じた。
色が違う彼の両目は、形も若干違う。
「あー……知っていると思うけど俺たちは、アスタリスクの施設から逃げ出してきた。アイツが故障した時を狙って」
カーネイジ・マーマン本人から聞く、本当のこと。アスタリスクの側に居た人間の話。
自然と耳を傾けてしまう。
みんなが黙り込む中、ムーヴィの低い声が部屋を満たす。
彼の声は自然と心臓まで染みわたっていく。まるで命が宿っているかのような鼓動を放っていく。
「……アスタリスクのもとには自殺志願者が集まってるんだよ」
〜つづく〜
五十二話目です。