複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.311 )
- 日時: 2013/03/06 16:15
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
54・As for my life, you are a pillar.
アスタリスクは機械だ。自分で自分の体を機械にした。
何故か。理由は一つしかない。
赤から逃げたかった。
アスタリスクがまだ人間だったころ、世界は赤かった。赤という色でしか表現できないほどに悲惨で、アスタリスクはそれから逃げたかったのだ。ただそれしかない。
だが、アスタリスクはそれを語りたがらない。
自分の意思を主張することは無い。
いや、違う。俺たちが。カーネイジ・マーマンが。アスタリスクのおもちゃたちが。アスタリスクと触れ合ってこなかったからだ。
直接手を下されたことは無い。間接的にアスタリスクは俺たちを縛った。縛って監禁して、改造をして。
俺たちはアシュリーに言われなければ、アスタリスクの存在を知らなかったかもしれない。それほどに遠く、そして薄い存在だった。
自分たちがなぜここに居て、なぜこんな目にあっているのか。それを考えるばかりで自分たちの陰に隠れているアスタリスクの存在を探すことをしなかった。
だから知らなかった。
俺は、死にたかった。
自分でも嘔吐してしまうほど醜いこの容姿。
不気味であり得ない瞳と髪の色に眩暈がして、自分の体に触れることが怖くて。自分の姿を見つめられることが怖くて。
そしてある日、俺が目覚めると別の場所に居た。
いつも寝起きをしている自分の家ではなかった。車の中だった。当時は動く箱だと認識していた。
両親の姿が見えなくて不安だった俺に、運転手はつぶやいた。
大丈夫。死ねるから。
安心した。
死ねるのだ。俺は死ねる。やっと死ねる。大嫌いな自分から離れることができる。やっとだった。両親の目が届かないところで死ぬことができる。
だから俺は再び目をつむった。
「……もちろん、今は死にたくない。銀がいるし、アシュリーだっている。それにパルだって。俺は俺のために生きているんじゃない。コイツ等のために生きているんだ」
そこまで言って、口元を掌で覆った。
言うはずでも無かった言葉を言ってしまった。こんな恥ずかしい言葉言うはずじゃなかった。
銀は髪の毛を逆立てた。いやそう錯覚するほどに、銀の纏う雰囲気が変わった。鼻息が荒くなり、たまらずに抱き着いてきた。
アシュリーも恥ずかしそうに軽くほほ笑んだ。
それを眺めて唯一切なそうな顔をしたのは、燕だった。
何故そんな顔をするのかわからない。
燕には、こんな人が居ないのだろうか。本気で守りたい人が。人生の柱になっている存在が。
「俺も! 俺もちゃんと生きる! 俺、自分が死にたかったのかどうかなんて覚えてないけど! でも俺は今、生きたい!」
〜つづく〜
五十四話目です。