複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.312 )
日時: 2013/02/22 20:48
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)


55・Blood of the beast not changing.


生きる。当然の行為のはずだ。その思考を奪われた。奪われていた。
おれは生まれた時から、生が普通ではなかった。
そんなおれと、一緒だと思った。
達羅銀孤。彼はそう名乗った。おれと短い時間だけど戦った人間。
戦っているときも感じていた。

生きる。ちゃんと生きる。

親方。ゴールデンアームス。黄金の両腕。
ゴミであるおれの手を引いて、光が確かにあたる場所じゃないけれど、でも毎日をちゃんと感じることが出来る場所に連れ出してくれた人。命の恩人。親方が居なかったらおれはきっとここに居ない。どこかで死んでいた。
その親方が死んだ。呆気なく死んだ。おれのために死んだ。
おれのせいじゃない。そんな風に考えたらきっと怒るから。
お前のせいなんかじゃないって絶対に怒ってくるから。
だからそんな風に考えることはしない。
大好きだったんだと、思う。できればずっと一緒に居てほしかったのだと、思う。
それが叶わなくなって。絶対に超えることのできない存在になって。絶対に俺を認めてくれることは無くなって。
その事実を受け入れる事ができそうもなかった。
一瞬だけ、死ぬことを考えたかもしれない。生きろってそう言われたのに。親方が居ないなんて、嫌で。嫌で。
おれを一人にしないでくれよ。まだ怖いんだよ。親方が認めてくれないと、おれは完全にゴミという呪縛から逃れることはできなさそうだから。
でも。
でも、今はこうやって生きたいって思っている。
こうやって、前を向く事ができている。
それは、雪羽のおかげだ。あそこでおれを正してくれた。やるべきことを教えてくれた。
本当に、感謝しきれない。
助けないと。おれを助けてくれた、立ち上がらせてくれた雪羽を助けないと。
じゃないと、きっと親方に怒られてしまう。

「恥ずかしいことを言うんだから……」

「いいじゃんか、アシュリー! 俺たちはずっと一緒だ! 離れたりなんかしない! だからパルを助けに来たんだ! 雷暝がアスタリスクに似ていようが関係ない! 俺は、俺たちは、絶対に勝つ!」

銀孤の瞳が輝いている。アシュリーも、ムーヴィも。強いんだ。みんなを信じているんだ。

おれは胸の中の空気を口から絞り出す。
おれも。
おれも信じよう。信じたい。疑いたくない。
おれは雪羽のために頑張るんだ。

「そんなに硬くなっちゃだめだよ」

どきりとした。
そうかおれ俺は緊張しているのかもしれない。
戦うことには抵抗は無い。何かを守るためなのだから。
大丈夫。何も考えずに、戦えばいい。
だけど、自分を見失わないようにしよう。
rinの鳴き声を発した時に自分の中の血が騒いだ。何も考えることが出来なくなって、心臓が変な動きをして、肌が熱くて。
ああなってはいけない。人間だけじゃないとばれたくない。
……嫌われたく、無い。

「ありがとう。カンコ、おれは大丈夫だから」


〜つづく〜


五十五話目です。