複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.317 )
- 日時: 2013/03/06 16:48
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
58・The small world shakes greatly.
私は立ち上がった。
光の点滅をするアスタリスクの話を聞けたことは良い収穫だった。
私には知識が足りない。ある研究に費やしてきた私の人生の中に、世界に対する興味や執着心は存在しなかった。そんな私がなぜこんなところに居るのかという問題だ。本当なら、家に居るだけでも目的は果たすことができる。
愛する愛する、愛しい愛しい、カンコを監視してしばりつけ、見舞り続けると言う私の人生の目的。
カンコは、あれは、私の人生の中の最高傑作だ。いい出来だ。素敵で、最高なのだ。私がすべてを注いできた。私の愛の、憎しみの、そして悲しみの、集合体だ。愛する必要がある。見守る必要がある。掌の中にずっとおさめておく必要がある。
立ち上がった私にアスタリスクは反応した。
「もう帰るのかい、春海」
「ああ。私にもすることがあるんだ」
毒々しい赤色の光が薄れ、紫色の光がアスタリスクの体中を駆け巡る。
アスタリスクの体は基本的に黒光りしている板のようなものだが、ところどころからコードが出ている。部屋中にもアスタリスクの体から延びるコードが散乱しているので、見栄えはあまりよくない。
「これは結構前の話だけれど、こんな話を憶えているかい?」
問いかけるとアスタリスクは少し考えるように光を止める。それを否定と受け取り、私は続けた。
「ハラダ・ファン・ゴが発表した武器。販売したすべての製品が、レプリカの劣化品だったという話だ」
「……そんなこともあったかな」
君は自分に関することで頭がいっぱいだな、と毒を吐くが、アスタリスクは対して反応を示さなかった。
私はそれ以上何も言わなかった。
何か、良くないことが起ころうとしているのは確かかもしれない。
世界全体の魔力が、低下している。均衡が崩れようとして居るのだ、と思う。確定ではない。何かが崩れる。何かのはずみで。
その何かを探し出さなくてはいけない。この世界はまだ壊れるべきではない。
「クオに会いに行かないと。アイツなら何か知っているに違いない」
小さくつぶやいて、アスタリスクに別れを告げる。
ハラダ・ファン・ゴの件と、世界。関係しているとは思えない。でもどこかでつながっている。
この世界に関係のないことなんかないはずなのだ。
+ + + +
凪は服を着なおすと、足早に城を去っていった。
もとの誰もいなくなった城の中では、痛いくらいに白が目立つ。
少し、眠りたい。
そんなことを思うのは久しぶりかもしれない。
久々に人の温もりに触れた。以前会った時では考えられないような、レッドライアーのあの人に対する興味。そして、あの赤い女。
間違いなく、世界は動こうとしている。
なぜ、助けようと思ったのだろうか。
なぜ。分からなかった。
〜つづく〜
五十八話目です。
お久しぶりです。