複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.32 )
日時: 2012/05/10 21:33
名前: 揶揄菟唖 (ID: yZ7ICI8F)

16・黒、疲れる。


俺は決して戸惑ったりなんかしていない。
アイツの歌を聞いてから変な気分だ。
コレは戸惑い、なのだろうか。よく分からない。
だが俺が戸惑うなんて、あんな奴に戸惑わされるなんて、ありえない。
俺が思っているのはアレだ。
……と言っても、思いつかない。
が違う。戸惑いではない。

って何考えてるんだ、俺。

歩くのが速いと言われたので、少しペースを緩めてやったがそれでも時々距離が開いてしまう。
それを学習した赤女は俺の手首を両手でがっしりと握り、離そうとしなくなった。
まぁ、手をつなぐよりは良いか。

再びペースを早くするが、問題はないだろう。
左手首にはアイツの手の感触がする。

一気に人ごみを掻き分けて、駅から外へ出た。

「うわぁ、ここが都会かぁ」

赤女はすっかり興奮したのか、俺の手首から両手を離して辺りを見渡し始める。

「おい、行くぞ」

今日中にしなくてはいけないことは、ホテルを取ることだ。
俺の名前があればどんな高級なホテルでも泊まることができるが、あまり有名なところに泊まると厄介ごとが増える。
俺を探している奴が、ここに来て初めに探すのはきっとホテルだろう。
しかも、高級なところ。
俺がいそうなところを手当たり次第に探すだろうから、目立たないところがいい。

「あ、ライアーさん。あっちに可愛いホテルがあります!」

そのことを大まかに伝えようとした時、ビルとビルの間を覗き込んでいた赤女が俺の方へと、顔をむけて手招きをした。

結構遠くまでふらついていたのか、コイツは。
でも俺が言う前にホテルを探すことを分かっていたなんて驚いた。
褒めはしない。

仕方ないので赤女のところまで歩いていき、同じように裏路地を覗く。

するとまぁ、裏路地にぽつんと立つ赤い壁が印象的なホテルがあった。
何でもかんでも赤か。コイツは。

あきれつつため息を小さく漏らすが確かにあそこは良いかもしれない。
目立たず、不潔でもない。

「あそこにしましょう」

そう言いながら、赤女は俺の手首をまた握り締めて、裏路地へと進んで行く。

まだ俺は「いい」なんて言ってないんだがな。
まったく自己中心的な女だ。
一緒にいて疲れるが。
この黒髪はぜひとも俺の物にしたい。
我慢だ、我慢。

裏路地にあるゴミ箱を避けながら、しばらく進むとホテルが段々と近づいてきた。

ただ、不安なところがある。
ホテルの問題ではない。
が、位置が悪い。
裏路地といえば薬に溺れたバカ共が、うろうろしている。
そこらじゅうをだ。
そして間の抜けた、無防備な、田舎から来たような、世間知らずをアイツらはターゲットにして口車に乗せる。
薬を買わせて薬を買うための金づるにするのだ。

まさに赤女は間の抜けた無防備な田舎から来た世間知らずだ。
これほどのバカは他に居ないんじゃないだろうか。
うっかり薬を吸ったが最後、死人のようになる。
死人のようになったコイツを連れて歩くなんて、俺は絶対にしたくない。

「えっと、2人なんですけど」

カウンターで鍵を受け取っている赤女を、ちらちらと階段の上から観察していると、俺の不安はどんどん蓄積されていく。
本当に、大丈夫だろうか。

……あれ、ん?

「おい、」

俺がいきなり話しかけたから吃驚したのか、赤女の体が一瞬揺れた。
そんなことはどうでもいい。
階段を駆け上がってきた赤女が俺を見上げる。
怯えた様子はない。

「どうしたんですか?」

まるで当たり前のように首を傾げる赤女。
まさか、コイツ、気付いてないのか。
どれだけ、バカなんだ。

「なんで2人なんだ、アホか」

手すりに寄りかかりながら、赤女が握っている1つの鍵を睨みつける。

赤女はよく分からない、とでも言いたげに鍵を自分の目に近づけた。

「相部屋かっつってんだよ」

しばらく赤女は俺と鍵を交互に見つめた後、納得したのか手を叩く。

「あぁ! ……あれ、ダメなんですか?」

もうコイツを誰かどうにかしてくれ。


〜つづく〜


十六話目です。
今回は私の息抜きのような物。
最初私の頭の中では
雪羽→ライアー
だったんですけど
コレを呼んだ友人は
ライアー→雪羽
っぽいとのこと。
あれ、おかしいな。
というか二人の間に愛だの恋だのはあるのか、それはわたしにも分からない。