複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.323 )
日時: 2013/03/11 16:45
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



61・Entertainment is in peak size boldly.


カンコは素直に頷いたが、アシュリーは眉を下げて悲しそうな顔をした。それが自分の無力を嫌悪するものだと知り、俺はその表情から目を離す事ができなくなった。
よくわかるのだ。
その気持ちはよくわかる。助けたい。力になりたい。でも、自分は弱くて、助けに行ったところで足手まといだ。それが分かっている。痛いほど分かっている。何かしてあげたい。でもできない。
そんな自分が、動けない自分が、どこかでおそれている自分が、大嫌いで。

それでもアシュリーはすぐに表情を戻したのだ。そこに強さを垣間見て、俺は自分が恥ずかしくなった。
アシュリーと俺は違う。すぐに状況を飲み込み受け入れて、最善の策を探す。せめて自分の不安を拡散しないようにする。必死で理性を確立させる。
凄いと思った。素直に、思った。
それと同時に殺したくなくなってしまった。殺さなければならない。それはクオの命令だから。
この感情を覚えたくなくて俺はコイツ等と一緒に行動することが嫌だった。
殺したく、無い。
こんな強いコイツ等を。力になってくれるコイツ等を。どこかまっすぐなコイツ等を。誰よりも、幸福に貪欲なコイツ等を。
クオに相談してみようか。そんなこと、できるのか、俺に。俺なんかに。
だってクオは、俺の恩人で。逆らいたくない存在だったのに。

『君は紳士だね。ジャルド。でもワタシは知っているぞ。お前実は人間が嫌いだろ。自分のことも嫌いだろ。愛しているのは、好きなのはそのカンコだけだろ』

笑いを押し殺したような声が、ジャルドの感情を揺さぶる。
ジャルドはすごく驚いたような、何かを思い出して辛くなったような顔をした。
彼が今どんな気持ちでいるのか、俺には理解できない。理解したいと思う。

ジャルドは結構仲のいい友達みたいな奴だった。アイツも俺のことをそう思っていると思う。でもお互いに深く干渉をすることは無かった。
俺は、ジャルドについて何も知らない。アイツも、俺については何も知らない。
初めて聞くジャルドの感情。大体は予想はついていた。
他人の前では取り繕った紳士の仮面をかぶるジャルドが、人を遠ざけていることは知っていたつもりだった。

カンコも息をのんだようだ。
張り詰めた空気に一気に変わる。
折角アシュリーが緩めてくれたのに。

『カンコ。やぁ、君の話はよく耳に入れていたよ。春海から』

「おい、雷暝!!」

叫んだのは、燕だった。ずっと黙って居たというか、静かだったのでかなり驚いた。
燕はどこにいるかもわからない雷暝に向かって指を突き立てる。

燕のことはよくわからない。まっすぐな奴で、裏切ったりはしない。それは分かっている。
雪羽に恩があるらしい。
こいつもこいつで、いろんな感情とか想いとかがあるのだろうな。
人間はみんな、どこかに深い物を抱えていて、自己嫌悪にいつも溺れそうなんだ。

「お前、すっげぇ喋るんだな! しかも人が嫌がるようなこと!!」

『当たり前だろ? ゲームは賑やか方がいいからな』


〜つづく〜


六十一話目です。