複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.324 )
- 日時: 2013/03/15 20:36
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
62・Merely believe only a victory.
「おれだって楽しいのは好きだけど、人が嫌がることはしちゃいけないんだぜ!」
燕の目は真剣だった。
強い光をともしているところは、どこかアシュリーに似ている。他人のことでこれだけ熱くなれる少年だったのだ。
彼の歯は若干鋭くまるで獣のようだ。彼と一緒にビーストと戦った時にも感じたが、どこか獣らしい野生のような感じがする。だからと言ってどうと言うことは無い。
信用していたアームスが死んできっとショックだったはずだ。多くは語らないけど、アイツが側に置いていたということは仲が良かったのだろう。
アームスはむさくるしくて単純だった。人に対して熱い奴だったけれど、気に入らない人間はそばにはおかない。というより、特定の人間を側に置いておくなんて想像もできない。
気に入っていたのだろう。この少年のことを。
確かに、コイツは明るくてまっすぐで。でもどこか弱さと脆さを持っている。
アームスに子供がいたという話は聞かない。でもきっと息子のように思っていたはずだ。
側に居た人間が死んだ。
それでもこいつはここに来た。ここまで来た。俺たちと全く面識がないのに、ただ信じてついてきた。
『燕。ゴールデンアームスのことは残念だった。あぁ、残念だったさ。しかしあれが起こってくれたおかげで、楽に雪羽をさらうことができた』
自分の拳が鳴るのが分かった。
燕が目を見開いてはを噛み締める。何か言おうとしたのかもしれない。噛み付く勢いで身を乗り出した。
それとほぼ同時に、自分の喉から何かが込み上げてきた。
「アイツの名前、気安く呼んでんじゃねぇよっ!!」
自分の声が耳を貫いて、空気を引き裂いた。
みんなが驚いたように俺を見た。
構わない。許せなかった。アイツ、大丈夫かな。元気かな。向かい側の観客席のような所に居るアイツはかなり驚いている。
怒りで微かに眼球が震えているような気がした。少し焦点が合わなくなっている。熱い息がのどを焦がしていく。
気が狂いそうな俺の肩をつかんだのはジャルドだった。
「雷暝。早く進めろよ。お前進行が下手糞だな」
落ち着いているジャルドを見て恥ずかしくなって来るけど、それと同時に嬉しかった。
俺は他人のことでこれだけ怒りを覚えることができる。俺、アイツのことが大切なんだ。なんでかは、分からないけど。
必ず助けて見せる。必ず勝ってみせる。
なんでもいい。なんなら、全員始末してやる。
『くくっ。わかったよ。じゃあ、第一回戦を始めようか』
俺たちは顔を見合わせた。
誰が出るか、全く決めていなかった。
向こう側の広場につながる通路の扉が開いた。
〜つづく〜
六十二話目です。
私も誰が出るか決めてませんでした。