複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.326 )
- 日時: 2013/03/19 21:15
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
64・Digest a grudge with fear.
ライアーの姿を見つけた時、そして私の方をじっと見つめてくれた時、本当に心臓が静まった。今まで熱を持っていた血液が落ち着いて、呼吸が楽になったような気がした。
後ろの扉は鍵がかけられているが、広場を見下ろすようになっているテラスのような部分にはガラスも貼っていない。だが高いのでここから逃げることはできない。そもそも逃げる気はない。必ず勝つことが出来ると信じているし。
ライアーの落ち着いている表情に助けられた。隣のパルも向かい側に現れた仲間に胸をなでおろしたようだった。
そして、その中にアシュリーを見つけた。そしてジャルド、カンコ。燕、アスラ。みんな私たちを助けに来てくれたのだ。嬉しい。嬉しいよ。
私、まだ死ねない。めげなくてよかった。
みんなのことを信じる。
それだけでこれだけ楽になれる。安らかになれる。
私も、ここでみんなを信じる。それが戦いなのだ。私にとっての。
自己嫌悪とか、後悔とか。そんなのは全部あとだ。だってここでうじうじ考えたって、私が悩んだって何も変わらない。ただ空気が悪くなるだけ。
もう私はただのバカではいられない。もっと、もっといろんなことを考えないと。私なりに頑張らないと。
私だけじゃないから。私はもう。私だけの物じゃない。
ここに居たくない。
帰りたいよ。
みんなのもとへ、帰りたい。
+ + + +
一度、話すと決めた。
そうすると、未来を見ることができる。前まではあれだけ暗い想像しかできなかったのに、もう大丈夫だ。
赤女なら、俺から離れていかない。そんなことを許すつもりはないけれど、無理やり連れていくなんて形にはならないと思う。
俺が赤女を必要としていることを話せばきっと、着いてきてくれる。
大丈夫だ。
まだわからないことをいちいち暗くする必要なんかない。
赤女はやけにきれいな格好をしていた。
ここからじゃあ全身は見えないけれどいつものダサい赤いジャージでは無いことくらいわかる。
肩を露出したドレスのようなものだ。
ちょっと、似合っている。
雷暝に変なこと、されてないよな。
信じてくれ。
俺たちは必ず勝つから。
俺たちは広場に足を踏み入れる人影を見下ろした。
それは第一回戦の相手だ。
敵から命か腕輪を奪えば、白星が一つつく。
俺たちは負けない。
ここに居る奴はみんな、失う気はない。取り戻す気しか、勝つつもりでしかない。
これだけまっすぐな連中なんだ。
「……俺、やるよ」
広場に現れた対戦相手を見つけて眼の色を変えたのはジャルドだった。目に見えて不快感をあらわにする。
それもそのはずで、相手は前にカンコと赤女を飛行船から叩き落としたヒダリとロムだったのだ。
恨みはまだ晴れていない。俺も行こうと思った時、意外な人物が名乗りを上げた。
「俺も……行く」
「……あんたが……?」
〜つづく〜
六十四話目です。