複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.328 )
- 日時: 2013/04/28 17:11
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
66・The ceremony of a battle, hesitation.
戦う前に考え事はしない。ただ勝てばいいだけなのだから。それ以上考え事をしたって仕方がない。
脳みそは、私だ。ヒダリに考え事をする能力は無い。考え事をすることはひどく面倒だ。
だから、私はただ呼吸を繰り返す。
この広場へは何度も足を踏み入れたことがある。
闘技場ともいえる円型のフィールドは、私と相手を戦わせる用途でしか使わない。囲むようになった壁からせり出した二つの観客席には、先ほど私が案内したパルと赤女、そして向かい合わせになったそこには今回の相手。カーネイジ・マーマンと、結構なのあるハンターたち。
誰が相手だろうと関係ない。私たちは勝つしかない。
相手の観客席の真下の壁に線が薄く入り、壁が上がっていく。露わになった暗い廊下の影から姿を現した数は、二。
当然だ。私とヒダリで二人、それなら相手も二人組でくるに決まっている。それにしては、少し雰囲気が険悪だ。
私は腰に手を当てて、指でそこをたたく。これだけ離れているのだし私がこの行動をしているのは分からないだろう。
飛行船の時に出会った紳士風の男、そして私の肩を壊した男。
そして、空気を雷暝様が振るわせる。
『自己紹介をしてあげて。できるよね?』
普段なら言わない台詞。
本当にこの人は、今回の戦い、ゲームを楽しみにしていたんだ。
彼の願いがかなう。叶おうとしている。ただ叶えればいいのに、相手にチャンスを与えている。
そこに彼の迷いがあるなんて、思いたくない。
私は一歩前に出る。
遠くに離れている二人組をしっかりとみる。
「……私は、ロム。性は無い」
そして私のヒダリ斜め後ろでピクリとも動かない男を指さした。
何時だか、紳士風の男には挨拶をしたが、雷暝様が言うのだからやらないわけにはいかない。
「これは、ヒダリ。もちろんあだ名よ。由来は左利きだから」
人形のように動かないヒダリの名前を雷暝様は教えてくれなかった。彼を連れてきたのは雷暝様なのだが。
名前が分からないと何かと困った。すぐ死ぬと思っていたのにヒダリはとても強くて長い間私たちと生き延びていたので、そろそろ彼の呼び名を決めることになった。
そして、レジルが言った。
お前、左利きなの?
レジルが言うまで気付かなかった事だ。でも確かに、何かを差し出して受け取るように促すと、必ず彼は左手を出すのだ。
無意識に聞き手を差し出す行動は、人間を長い間調べてきたレジルだからこそ指摘できた点だった。
「俺はジャルド。性は……まぁ、言うほどでもないな」
向こうからやけに通る声が聞こえてくる。性を名乗ることを渋るという行動は、彼の用心深い性格を表しているような気がした。
「アスラ。性は無い」
〜つづく〜
六十六話目です。