複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.330 )
- 日時: 2013/03/22 15:02
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
68・Care of suiting to kill.
戦う前の高ぶりというものは、経験したことがない。昔はそれなりにあったかもしれない。でもあまりよく憶えていないのだ。
忘れた。いや、無理矢理に消去したのだろう。一種の自己防衛本能ともいうべきか、俺は自分に都合の悪い感覚として、その高ぶりを体の中から消した。消し去ったのだ。
妙な感覚だ。人間と戦うという行為に躊躇いも、興奮も覚えない。だがしかし、楽しみな自分がいる。確かにいるんだ。
こうやってちゃんとしたステージを用意されて殺し合いをするという経験は、もう二度とないだろうな。
慣れない環境に緊張しているのか。そうじゃない。
助けたいと思っているのか。あの女を。雪羽嬢を。アイツは確かに生かしておきたい人間だ。俺と子猫ちゃんの御遊びに侵入してきたアイツ。初めて見た時、遊んでやりたいと思った。
子猫ちゃんは元気にやっているかな。まだあいつの配下でこき使われているのかな。会いに行ってやろう。
落ち付いているのだろう。負けるはずが無いと思っている。おごっている訳じゃない。自分の力を過信して居るわけじゃない。
負ける自分の姿を想像することができない。かといって相手の血だまりを想像することだってできない。
それほどこの勝負の勝敗は分からないというのか。
雷暝の言葉の直後に思い鐘の音がした。誰が鳴らしたのかどうかも分からない。
俺はとっさに体の力を抜いた。正しい判断かどうかわからない。自分の体に任せるだけだった。
アスラの方を確認している暇はない。
一拍を置いて、ヒダリが距離を詰めてくる。距離があるし一気に詰められることは無いが、それでも早い。
刀を抜き、皮膚が離れているかのような感覚のまま柄を握りしめる。鞘は邪魔なので左手に握り、ぶらりと筋肉を弛緩させる。右手の光る刀身を向ってくるヒダリの姿と重ねた。
俺から向かっていっても良いが、それは後々に困るだろうと考える。
俺が心配をしているのは体力だ。アスラは腹に怪我を負っているはずだ。アスラが先にダウンしてしまったら俺一人で戦うことになる。それはキツイ。
怪我はしていないが、結構俺も疲れていた。最終的には見つかったから良いものの、さっきまでのカンコの創作で心身ともに疲れがたまって居るのだ。カンコが居なくなったと考えた時のあの心臓の冷たさで、かなり削られた。
ヒダリの重心がかなり低い。あの状態で走ることが出来るとは。
俺は右足に力が入って居ることに気づいた。
情けない、逃げ越しだ。
俺は右足を踏み出した。いきなりの行動に驚いたらしいヒダリの動きが、一瞬ためらうように速度を落とす。
「足引っ張んなよっ……!!」
〜つづく〜
六十八話目です。
281話ですね。
頑張ります。