複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.336 )
日時: 2013/03/28 14:39
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



72・A gentleman's reception.


アスラは途中で血を吐いた。ヒダリに指示を出している暇はない。
ジャルドの反応が予想以上に早かった。そしてアスラの動きも。まさか私の魔術を避けるとは。滞空時間を長くするためにはあの魔術一つにずっと集中しているしかない。そんなことをしている暇も余裕もない。次の魔術のために集中している暇もない。だから私はすぐに移動をした。見つかると思ったし、実際すぐに見つかった。ここには隠れられる場所は無い。だから私は太ももに着けていた小刀を抜いた。

「ヒダリ! こっち!」

叫びながら自分の左腕の二の腕から肘までを切りつけた。服が破れ腕に赤い線が入る。拭き出てくる赤い血液はヒダリの目にも見えたはずだ。

ヒダリには意志は無い。私が指示を出さないと何もしない。だが、初期設定がある。
私が教えたものだが、私が指示を出す余裕がないときは自分の身を守ること、そして私が自らを傷つけた時は今まで出したものの指示をリセットして私の側に戻ってくること。
他にもまだある。次の指示を出すまではその支持をずっと継続させて考えること。その初期設定で、ヒダリはすぐに私のところに戻ってきた。黒いコートをなびかせてやってくるその姿はまさに死神だ。

「おいっ!」

ジャルドの声だった。何かを含んでいるようにも聞こえるその言葉に、アスラはすぐに反応してジャルドのところに戻っていった。まるで私たちを見ているかのようだった。

「っふぅー、疲れた。アスラ、大丈夫か?」

血がにじんできている腹に手を当てている機械のような男に目線を配ったジャルドの顔には、余裕しかない。
ヒダリの強さと速さは分かったはずだ。なんでこんな顔しているんだ。
ジャルドはストライプのネクタイを手慣れた手つきで外す。地面に投げ捨てながらアスラの肩に腕を載せて寄りかかった。
最初は仲がよさそうではなかったのだが、今は奇妙な絆が生まれているようにも見える。

「まぁ大丈夫だろう」

「ん、OK。おい、女。お前、脳みそだろ」

刀の刃先をこちらに向けながらジャルドは首を傾げる。奴の短い黒髪が重力に揺れた。その真っ黒の瞳は私だけを見つめている。
ようやく、分かったか。
どの段階でかは分からない。予想以上に遅かったな。

「……その意味は?」

一応尋ねてみると、ジャルドは自分の首筋を撫でた。刀を揺らしながら微笑むその表情は、意地の悪い子供のようで紳士とはかけ離れている。
コイツ、勝負を楽しむことを選択したんだな。

「ヒダリは一人では考えられない。その分、お前がヒダリの行動を支持して動かしている」


〜つづく〜


七十二話目です。
難しいです、調子のりました。