複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.338 )
日時: 2013/03/29 14:31
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



73・I do not want to take a hand.


腹の痛みは問題ない。
ジャルドは俺のことなんか気遣わないだろうと思っていたが、意外にも奴は俺にスキンシップをとってくる。
ぎくしゃくした雰囲気と言うことではなかったと思う。ただお互いに無関心でいようと思っていたのだが。それなのに、無理にでもかかわろうとしているのか、この男は。よくわからない。頭が悪いのか、いいのか。
人のことを知るのは苦手だ。人の心と頭の中は見ることができないから。

この男はちゃんとヒダリのことを考えていたらしい。確かに、あの男は何も考えていない。
でなければ、ロムが無理に距離を取ることは無いからだ。ヒダリが自分の意思で行動するなら、ロムはどこに居ても大丈夫なはずだ。ヒダリは早いから、いつでも助けに行くはずだから。
それをしないのは、ロムが無事でいなければいけないということ。
そして、距離があってもヒダリに指示を出すことができる。必ずヒダリはロムのいる方向を見ているわけじゃない。
それならどうやって指示を出しているのか。

「気づいたところで何よ。私を先に倒す?」

ロムは相変わらず女にしては鋭い瞳を向けている。
彼女の眼光はアシュリーとはかけ離れている。獲物を狩る、何かに飢えているような視線。
怖いくらいだ。だが怯んではいられない。

「女を攻撃はしたくないけどな。しかたねぇだろ」

ジャルドは黒色の瞳で俺を見る。呑みこまれそうなほどの闇。
少しだけ、考える。コイツのこと。
ジャルド。変な男だ。武器は刀。スタイルは多分、自己流。見たことのない型。本能のままに振る筋。そこにどこか美しさを秘めている。
カンコという少女を守り抜く姿勢。人を簡単には信じず、自分の胸の内を見せない。人を寄せ付けない雰囲気。それでいて不快感を与えない振る舞い。
紳士である、同時に詐欺師のようでもある。
興味があるわけじゃない。ともに戦うというより、同じ場所で戦っているというだけ。
手を取り合うことは無い。コイツとはウマが合わない。それは分かっている。コイツもわかっているはずなのに、俺に意見を求めている。

俺は黒い瞳から目を逸らした。

「性別は関係ない。そうしてもというのなら、腕輪を奪う程度にしておくか? 紳士ジャルド」

嫌味を込めて言うと、隣で小さく笑う男。
俺の首に腕を巻きながらジャルドは耳に口を近づける。

「アスラぁー。お前はなんなの? 俺をいじめたいわけ? 何? 意外とそういうこと言うの? ハラダ・ファン・ゴではあれだけ大人しかったのに?」

ジャルドの言葉には軽く怒りがこもっているような気がしたので、胸を手で押して引きはがす。

ヒダリはロムの側でじっとこちらを見ていた。

「そんなことどうでもいいだろ。じゃあ腕輪で良いんだな?」


〜つづく〜


七十三話目です。

モヤン#さん、ありがとうございます!
ほいほい、無理せずに行きますよー!!