複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.34 )
日時: 2012/05/10 21:40
名前: 揶揄菟唖 (ID: yZ7ICI8F)

17・赤、助けられる。


というわけで、なんだか知らないけれど私とライアーさんは別室になった。
ライアーは怒ってた。
照れてた?
のかな?
良く分からないな、ライアーの事は。
いまだに。
というか、この短期間で人は他人のことを理解することが可能なのだろうか、知らない。
私は1人の時間のほうが長かったわけだし。
多分ライアーもそうだろう。
きっと1人の時間のほうが長かっただろう。
彼の事はよく知らないし、どのくらい強いのかも知らない。
でもあの性格から言って、失礼だけど、人と絡む機会は少なそうだ。
顔がアレな訳だからある程度は女の人は近寄ってきそうだ、うむ。

というわけでライアーのことを試行錯誤してみた。
何が楽しかったんだろう。
何も楽しくない。
だって、暇なんだ。
私は大抵暇だ。
思い返すと暇な時間が最近多くないか?
多い。明らかに多い。
ライアーにあってから暇になった。
悪い意味ではないかな。

寝返りを打つとホコリが空中にまった。
さっきの列車よりは硬いが別に寝難いわけでもないからいいや。

身体に力を入れてベッドから立ち上がる。
因みに私はライアーに
「絶対に外に出るな。なるべく部屋からも出るな」
と言われている。

守るわけないだろう。
だってこんなに暇だし。
だからと言ってライアーの部屋に行くのも嫌だ。
ライアーが嫌いなわけではないが、私が行けばきっと眉間に思いっきり皺を寄せて文句を垂れる。
ならばれない様に、外に出てふらふらしてこよう。
人生初めての都会を堪能してこよう。少しでも。

ぎしぎしと、私の不安な気持ちを煽るような床を歩いて、扉に手をかけた。
ドアノブの手を掛けながら、自分に今なら戻れると言い聞かせてみる。

そうだ、今なら戻れる。ライアーの言うことを聞いたことになる。
まぁ、いいか。
ライアーの言うことを聞く義務は私には無いわけだし。

カウンターで暇そうにしている女の人に、頭を軽く下げて外に出た。
外はやはり寒かったが、戻る理由にはならない。

ふらふらと道を歩く。

なんだが、思っていたのと違うなぁ。
人が少ない。
もっと一杯人がいるのかと思っていた。
確かに駅の近くにはたくさんの人がいた。
でもここには人は居ない。

「なんでだろ……」

きょろょろと辺りを見渡しても、やはり人はいない。

おかしいな、イベントでもやってるのかな。
それなら行ってみたいな。

もう少し道が広いところに行こうと思ったとき、誰かが私の肩を叩いた。

「お嬢さん」

一瞬驚いたがお嬢さんは私しかいないし、肩も叩かれたわけだから振り返る。
と、顎に髭を蓄えたおじさんが私を見上げていた。
背が低いわけでもなく、どうやら酷い猫背のようだ。

「えっと……?」

知り合いでもないので声をかけられる覚えがない。
私が口ごもっているので、おじさんが低く笑い声を上げる。

「お嬢さん、何処から来たの?」

何処からって、何処からだったか。
あのおっちゃんがいた、私がライアーと出会った村は何て名前だったか。

「…………」

私が俯いたり、辺りをきょろきょろしているのを見て、おじさんがまた言葉を紡ぐ。
本当に申し訳ないと思う。
もしかしたら困っているのかもしれない。

「お嬢さん、何か悩んでいることはある?」

悩んでいること?
あっただろうか?
おじさんは何が言いたいんだろう。
申し訳ないけれど、なんとなく危険のような気がする。
充分に質問に応えられていない私が、こんなことを思うなんて失礼なこととは思っている。
でも、おじさんとこれ以上関わってはいけないような気が、するんだ。

「……えっと」

私がまた応えられないでいると、おじさんは薄汚れた上着のポケットに片手を突っ込み、何やら慌てた動作で小さな袋を取り出した。

私がそれを覗き込もうとすると、ご丁寧にも両手を私の方に近づけてそれを見せてくれた。

でも袋のままだと見えない。分からない。
私は次に得意げに微笑むおじさんの顔を見つめる。

「コレ、ね、嫌なこと、全部忘れられるから、ね? 今日はお金いらないから、ね? 飲んでごらん?」

どんどんと私のほうに両手を突き出すおじさん。

え、なんだろう、怖い。
どうしよう。
貰ったらいいのかな?
嫌なこと忘れられるって、なんだろう。
気になるけど、怖い。

「ね? いいから、貰いなよ、ね? 飲みなよ!!」

いきなりおじさんが大声を出したものだから、私の身体がびくついた。

怖いけど、はやくホテルに帰りたかったから、おじさんの手の中の袋に手を伸ばした。

袋を摘もうとした時、おじさんが満面の笑みになった時、私の肩を誰かが掴んだ。
それにも驚いて体が震える。

その手の人物を確認しようと顔を上げる。
同時に、その人が口を開いた。

「あたしの連れに何しようとしてんの?」

うぉ、美人。
凄い、美人だ。
綺麗な金髪。
綺麗な青い目。
綺麗な声。
とにかく、全部。
全部、綺麗。

「……っち」

するとおじさんは怖気づいたのか、舌打ちをして走り去っていった。

「あの、ありがと、」

お姉さんが私の肩を離したので、向き直ってお礼を言いかけた時、バッチリときれいな青い眼と目が合った。

美人だ。文句なしの。

「気をつけなよ、麻薬に嵌るなんてバカのすることだよ」

厳しい声できっぱりと言われたので、私は身体を小さくして俯いた。

麻薬。
麻薬だったのか、アレは。
危ないところだった。

「本当に、ありがとうございました」

私が顔を上げて、しっかりと頭を下げるとお姉さんは鼻を鳴らして歩き出す。

「じゃあね、バカ」

最後に言われたことはちょっとアレだったけれど、確かに私はバカだ。ライアーの言いつけを守らなかった。きっとライアーはこのことが分かっていたんだろう。
なら、言ってくれればよかったのに。
まぁ、私が悪いのだから。
私は自分のバカさに溜息をついて、ホテルの方向に足を向けた。

うん、怖かった。泣きそうだった。

〜つづく〜

十七話目です。
今回は雪羽が誰かと遭遇。
まぁ、誰なのか伝わっているかどうか不明ですが。
とにかく、美人と、女性と、一人称が「あたし」の人です。
それでは、みなさん、またいつか。