複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.340 )
日時: 2013/03/30 22:37
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



74・An aberrant sexual propensity, morbid love of cleanliness.


返答を喉の奥でかみ殺してしまった。
腕輪か命か。女を攻撃したくないのは事実だ。だって俺は仮にも紳士だし。アスラは問題ないようだけれど、俺は気にする。でも女であって、敵には変わりない。それは分かっているから。
だからこそ、コイツをまっすぐに否定できない。
迷った挙句に俺はアスラの茶髪を撫でた。

「……なんだ、気色悪い」

アスラがむすっとした顔を作って俺の手をはねのける。
自分でもなんでやったのかわからない。多分、緊張を解こうとしたんだと思う。
カンコが攫われていたのなら、全力で守ると思う。そして自分がどうなっても良いから戦い抜くだろう。
しかし、赤女。雪羽嬢だ。自分がどこまで本気になれるかわからない。自分自信の惰性に緊張しているんだろう。
頑張るといった。必ず助けると誓った。だから手を抜くことはできない。ライアーを失望させるわけには行かない。ガラに合わないけど、一応友達という奴なんだ。
これを聞かれたら、カンコに笑われそうだ。
早く上に戻ろう。カンコのところに戻ろう。そして、身をかがめるから彼女の小さな手で撫でてもらおう。
そうと決まったら今はこの硬い茶髪を撫でることで気を静めるしかない。

刀を構えなおした。
ファゴーから奪ってきたなかなか切れ味のいい刀。売ったらそれなりの額になると思う。
光を反射してまるで発光しているかのように見えるこの刀。
ぶれたのだ。
あの感触を思い出す。
ヒダリの首を狙って振り下ろしたこの刀身を彼が庇って、右腕と衝突した時のあの振動。肩の辺りまでがしびれあがり、刀を離しそうになってしまった。軌道がぶれて、まるで反発しあうかのように弾かれたファゴーの刀。
ヒダリの全身を覆っている服の下に、何か仕掛けがあるのかもしれない。だとしたらあれだけ早く動くことはできないはず。
いよいよヒダリのことが分からなくなってきた。
彼は一体、なんなんだ。
人間という可能性は無い。自分で判断できず自分を守ることすら指示がないとできないような生き物を、人間とは言えない。

「さあてとっ。じゃあ行きましょうかね。ロム嬢」

「なっ……!!」

これだけ遠くに離れていたのに、彼女が顔を真っ赤にさせたことは手に取るように分かった。
どうやら彼女はずっとここに居たから男と言うものを知らないらしい。しかもヒダリとよく行動を共にしていたのならなおさらだ。
彼女が雷暝の手の中に転がり込んでくる前のことは知らないけど、昔にも男の経験は無いということか。

「処女かぁ……たまんねぇ」


〜つづく〜


七十四話目です。