複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.341 )
- 日時: 2013/03/31 18:06
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
- 参照: http://287
75・There is no chosen spare time.
私に向かって振り下ろされる銀色の刃物。左腕でそれをかばいながら重心を傾けて後ろに跳ぶ。
追いかけてくる刃物は立派な物だ。多分それなりの職人が作ったものだろう。
「紳士とか言っておきながら乱暴っ」
ジャルドという男の口角がぐっと上がっている。楽しそうに戦う様子はコイツが普段どんなことをしているのかと言うことを容易に想像させる。
コイツも、戦ってきたんだ。それも長い時間。一人で。自分を疑いながら。
私に似ているかもしれない。
ジャルドの背後を見てヒダリを確認しようとする。それを紳士の体が遮った。彼の振るった刀で私の揺れる髪が少し切断された。
「俺が居るのに他の男見るとか無しな!」
空中に舞う髪の毛をさらに斬るかのようにジャルドは刀を振るう。
このままじゃあヒダリに指示ができない。いや、出来る。できないはずがない。
私の表情に余裕がにじんでいるのを確認したのか、ジャルドは少しだけ眉を潜めた。
今までずっと死なないために戦ってきたのだ。この程度のことに気付いて対策をとってくるなんてまだ経験がないわけじゃない。ヒダリと私の関係に気付けるかどうかは、まだ初歩なのだ。
そして次。どうやって指示を飛ばしているのか。それが分からないと止めようがない。
私はできるだけ小さな動作で指をはじいた。
ヒダリとアスラがどういう風に戦っているかは分からない。だから指示の判断を間違えてはいけない。
ヒダリをうまく使わないと呆気なくあれは死ぬ。あれが死んだら私一人で戦うことになる。
悔しい話だが、そうなったら勝ち目はない。私の攻撃手段は魔術とヒダリ。魔術を作るためにはヒダリが居てくれないと困るのだ。
「てめぇっ!!」
私の指先の動きに気付いてももう遅い。恐ろしいほどのスピードで迫ってきたヒダリに、この男が反応できるはずが無い。
冷酷な赤い瞳は躊躇いを知らない。
後ろを振り返り、何とかヒダリの攻撃を刀で防ごうとしたジャルドから咄嗟に距離を置く。
ヒダリは一つの命令にしか従わない。だからアスラが追いかけてきても余計な反応はしない。ヒダリは私の指示通り、ジャルドが備えた刀ごと腹にけりをたたきこみ吹っ飛ばした。
私は次の指示を出すために指を動かす。
ジャルドは途中で受け身をとったが、たまらなかったのか口から血を吐き出した。
ヒダリの右足が刀で少し傷ついたが、服だけだ。
指示を出しおわり私は魔術の準備に入る。
ヒダリが動く。
アスラがこちらに近づいてくる。
「えっ!?」
驚いた。変な行動だ。ヒダリの攻撃から逃げられるはずもないのに私に迫ってくるなんて。
そして、ヒダリの唇が動いていることに、私は気付けなかった。
「っ、まさかっ」
アスラの足が速い。計算以上に早い。ヒダリと同じくらいかもしれない。
魔術だ。初歩的な魔術。自分の力を増大させる呪文。魔術の端くれ。
体力を消耗するのに、彼は迷わずにやっている。だとしたら。
目の前に影が差した。アスラだ。顔を上げる前に、私は唇を開いた。
「炎魔!! 岩花火!!」
〜つづく〜
七十五話目です。