複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.342 )
日時: 2013/04/01 15:50
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
参照: http://288



76・It is understood by power.


目の前の色が鮮明になっていく。色という暴力が頭の中をかき混ぜるように刺激していった。
止まるわけには行かない。限界を超えるスピードに足がもげそうだ。
計算してロムは自分になるべき近いところに魔術を発動させた。しかし、ロムほどの魔力では細かい場所指定はできないはずだ。そして、あまり遠くに発動することができない。雹結の魔術でそれは分かっている。遠くまで操作することはできていなかった。
唇を動かしたのはロムに誤解を持たせるためだった。俺が魔術を使ったと思わせるため。
そうじゃない。これは俺の能力であって、魔術ではない。限界まで加速させる。制御を解き放って、全身の力を引き出す。

岩花火が炸裂するのを予想して、跳躍。
避けるためだ。しかし、それは予想外の場所で怒った。
空中だ。

「ふぅあ、ah、くっ、aaua」

ロムの周りの空気が小刻みに動き、ところどころ何かがはじけるように光を放っている。苦しそうな息を吐いている。
それをうまく確認する事はできなかった。
構えていた右腕を退いて顔を覆い、とっさに身を小さくする。想像以上の威力の岩花火が俺の全身をたたきつける。
弾き飛ばされ、一気に後ろに意識が飛びそうになった。地面がどこかわからない。目を開き、状況をつかもうと必死になる。
でもわからない。しばらくして、浮遊感が失われる。直後に、背中に衝撃が生まれた。
素早く手をついて体を起こすことで和らげようとしたが、うまくいかない。
肺の空気が絞られて埃を吸い込んでむせてしまった。


 + + + + 


「アスラさん……!!」

策から身を乗り出して叫んでしまった。
あの魔術は見たことがある。飛行船から私とカンコを落とした時の魔術。そしてパルが部屋から出るときに使用した魔術。
涙が出そうになった。
結構な威力だ。扉を破壊するほどの威力の魔術を真正面から食らったんだ。無事であるはずがない。
今すぐにでもここから飛び降りてしまいたかった。そして彼を助けてあげたかった。
たとえ彼が私の命を狙っていたとしても。私のことを助けたい理由が、自分で殺したいからだとしても。それの心当たりがないとしても。
私のために傷つく人間は見たくなかった。

「雪羽、落ち着けよ。大丈夫だ」

「なんでそんなことっ!!」

振り返ると、パルの発光しているようなライトグリーンの瞳は、まっすぐだった。力強いその瞳に眩暈を覚えてしまうほど。
ジャルドもアスラも、彼の知り合いじゃない。でも彼は私の痛みを共有してくれているような気がした。
だから安心した。

「いいか、雪羽。魔術の仕組みを教えてやるよ」


〜つづく〜


七十六話目です。