複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.343 )
- 日時: 2013/04/02 12:56
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
- 参照: http://289
77・Memory confined purposely.
魔術の仕組み。
頭の悪い私だって、少しくらいは魔力は持っている。だけど、詠唱の言葉を憶えることができずにあきらめた。
その仕組みが分かるということはやはりパルは魔術に詳しいのだろう。
魔術は世界に浸透しているし、便利な物だけれど使いこなせる者は少ない。完全に使いこなせている人なんて、クイーン・ノーベルくらいしか存在しないのではないかと言われている。
私も初歩的で、詠唱が短い物ならできる。それでも精神を限界まで集中させなければできない。
「この世界とつながったどこかに、アンダープラネットが存在する」
といいつつパルは私の横に立って下を眺めた。
私のために戦ってくれている二人。怪我をしなければいいなんて甘いことはもう言ってられなかった。
「そこにはアンダープラネッターという奴らが住んでるんだ。詳しくはまだ知られていない。そいつらの力を借りるために奴らに声を掛ける。これが詠唱だ」
分かりやすく説明をしてくれている。そんなこと知らなかった。詠唱にもしっかりとした意味があったんだ。
だけど、その説明でいくと妙な事がある。
記憶では確か、今ロムは。
私が向けた視線に合わせて、パルも目を細めた。
彼の濃い紫のような、黒のような髪が風で揺れる。少年のようで、幼いイメージを与えるその顔をしていても、彼はしっかりしている。
私にはわかる。
「そうだ。雪羽が思っている通り、今ロムは詠唱をしなかった。省略したんだ。ここで見ていてわかったんだが、ロムはそれなりに魔術を使うことができるらしい。場数も踏んできている」
パルは彼女を見下ろしている。
頭を抑えて何やら呻いていた。苦しそうな彼女を見て、同情しそうになる。
なんで、こんなことをしているんだ。ロムは、戦わなくちゃいけないのか。
ふと下の方の席を見ると、雷暝が居た。
楽しそうに戦いを鑑賞している彼の瞳は爛々と光っているように見えた。右目しか覗いていないにもかかわらず、見えないヒダリ目までが光を帯びているようだ。その暗い、嬉々とした表情を浮かべている。仲間なんじゃ、無いのか。なんだよ。なんで、ここで。なんでここで、みんなのことを思い出すんだ。お母さん、お父さん、大切な友達、みんな。大切な人たち。
——————私が×した。
「でも、アイツはきっとアンダープラネットに揺れているって、雪羽?」
目の前がぐらりと揺れた。肩をつかまれて、顔を覗き込まれる。自分の汗が顎で伝う感触がした。指先まで震えている。
なんだ、これ。なんだっけ、これ。なんか、思い出しかけたんだ。何か、触れてはいけないところに、触れそうになった。いや、触れた。
赤。赤だった。確か、赤い光景だった。それで私は。
私は確か、笑っていた。
なんで、だっけ。思い出せない。思い出せないなら、いいじゃないか。いいんだ。それでいいんだ。それでいい。思い出さないでいい。何も考えないでいい。
私はバカなんだから。
「大丈夫、です。そ、それで、揺れているってなんですか?」
〜つづく〜
七十七話目です。
今年中に完結できるかなって思ってたんですけど、できるでしょうか。
ぎりぎりです。