複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.344 )
日時: 2013/04/03 15:54
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



78・The choice which cannot return any longer.


銀が時々夜中になる現象がある。
全身をこわばらせて痙攣し、爪で頭皮を遠慮なく削って、汗をにじませて荒く呼吸をする。
出会った当初にその現場を目撃した時は、何の感情も抱かなかった。
でも、段々と銀のまっすぐさや美しい純粋な心を知って、彼に魅了されていった。
彼を守りたい。彼の力になりたい。彼と一緒に居たい。そして、その感情を自覚したころ、また俺は彼のその現象を見た。
夜中、まっくらな暗闇の中で、彼は何かから逃れるように、怖がるように身を小さくする。苦しそうな声を出して、目をつむって。
見ていられなくて、俺は必死に彼を抱きしめた。すると彼は薄く目を開けて笑ったんだ。
その顔が忘れられない。
あの、どこを見ているのかもわからない瞳。

その事を思い出した。
雪羽は、突然ふるえて、呼吸を乱した。いきなりおこったその行動に俺は何もできなかった。
そのあと雪羽が作った表情は、あの日の銀にそっくりだった。

「続けてください」

なんて言って雪羽は促すけれど、それで本当にいいのだろうか。
首をかしげて見せる彼女はもう、あの表情のかけらすらうかがわせない。
俺はしばらく黙っていたが、話を続けることにした。
アホそうで、バカで、でもそんな彼女にも、何かあったんだ。ここに来るまでで、たくさんの何かが。
俺みたいに、劣等感を味わったり、自己嫌悪でつぶれたり。そんなこと、俺だけじゃない。みんな、同じなんだ。みんな何かを抱えてて、悩んでいて。
きっと下で戦っている四人も、そう。

「……無理矢理にアンダープラネッターの力を借りたんだ。詠唱を省いて、まともに語りかけなかった。だから炎魔がロムをアンダープラネットに引きずり込もうとしている」

でも、耐えている。
彼女は耐えている。
まだ、死ねない。
彼女の根性がそれをあらわにしている。
死ねない理由は、なんなんだ。雷暝なんかに命を預けて、こんな事のためにそれだけ必死になって。
まるで、俺たちじゃないか。
俺たちは、アスタリスクのおもちゃだった。自身の願いや思いを見ないようにさせられて。
そんな俺たちと同じ。何時までも縛られたままの俺たちと。
いつか、決着をつけに行かないと。アスタリスクに合わないと。それで伝えないと。お前のもとには戻れない、居られない。大切な物を見つけたから。
死にたいっていう感情を抱いた俺たちをかくまって、そして今の俺たちが居る。
ある意味感謝すべきなのかもしれない。

「ロムさんは、強い人なんですね。でも、よくわからないです」


〜つづく〜


七十八話目です。
ツイッターで行った「フォロワーさんを自分の世界観でキャラ化」っていうのがすごく楽しかったです。
自分の世界観ってよくわからなかったけど、なんとなくわかったようなきがします。