複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.345 )
日時: 2013/04/04 16:11
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



79・It will become bright if stimulated.


「……わからないってなんだよ」

その発言が分からなかった。
確かに、ロムが強いっていうのには納得できる。負けたくないという信念が、ああやって彼女を踏んばらせている。あれは彼女の強さだ。
俺も、すごいと思う。あれだけ追い詰められているのに。何時アンダープラネットに引きずり込まれてもおかしくないのに。

「そんな危険を冒してまで、あの男に尽くす意味がです。私はロムさんが身を挺してまであの男に価値があるとは思えません」

雪羽の美しい黒色の瞳は、もだえるロムを楽しそうに眺めている雷暝を見つめていた。その瞳からは、感情が読み取れない。
ただ、ずっと見ていると吸い込まれそうなほど美しい黒色だった。
雪羽って、こんなきれいな目をしていたんだ。

「……俺にもわからない。でも負けられないんだろうな」


 + + + +


頭ぐらぐらする。
体の中身がどこからか出てきそうだ。この感覚は初めてだった。色が歪んでいる。輪郭がにじんで、景色が良くわからない。
だが、アスラがあの程度では怯まないことは分かって居た。アスラは腹の傷を気にしているようだ。
急いで指で指示をする。ヒダリを動かさないと、この状態の私に容赦なくジャルドは牙をむく。
ヒダリが居なかったらと思うと、冷や汗が出てきた。

「くっso、uaaああぁ……」

口から声が漏れる。
悔しい。悔しい。悔しい。
なんで私はこんなに弱いんだ。ヒダリが居ないとなんて。たかが魔術でこんなことに。こんな状態に。有り得ない。
私は負けるわけには、死ぬわけにはいかない。

ソウガ。
ソウガ、私はあなたを超えるんだ。あなたよりも長生きする。あなたの死ぬところを見る。
雷暝様。
私はあなたの玩具だ。それだけだ。
でもいつか変わるだろうから。私が勝ち続けて、生き残り続ければ、きっといつかあなたを変えることができるから。
あなたを変えて見せる。
そのためには負けられない。ここで終わるわけにはいかない。

「uaaaっ、くっそおおおぉぉぉっっ!!」

はじけ飛んだ。体が軽くなって、心臓が熱くなる。それでいて皮膚は冷たい。何かが飛び出てきそうな感じは変わらない。皮膚の下で何かが波打っている。自分の声が芯を持つ。ダブって聞こえない。自分の声がしっかりと聞こえる。口の中で血の味がにじんでいる。
構わない。
そんなの関係ない。
負けたくない。
負けるわけにはいかない。

「なんだよ、落ちなかったか」

アスラが笑った。確かに笑って、口の端を手の甲で拭う。

「当然じゃない。私は……」

そこで言葉を止める。
いうべきじゃない。

私は、みんなが好きなんだって今更知ったなんて。


〜つづく〜


七十九話目です。
春休みもそろそろ終わりですかね。