複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.346 )
- 日時: 2013/04/05 12:34
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
- 参照: http://292
80・The domain in which it newly set foot.
雷暝様のためだと口をそろえるのだ。それが、彼の願いだから。彼の願いが、私たちの願いだから。彼にあらがえば生きる権利を失うから。
小さな世界なのだと思う。小さな世界の中で、彼が中心だった。でも違うんだ。彼は、小さな世界の中で私たちしか愛せない。
そんな悲しいことを知ったのは、本当は今じゃない。ずっと前から本当は分かっていたことなんだ。
彼の願いをかなえることは彼を滅ぼす事。
みんなが、好きだよ。私は生き残ってきた。そして、みんなも生き残ってきた。
愚かなことなんだと思う。考えてはいけないこと。望むことを放棄したはずだった。
違う。そうじゃない。
私たちは、雷暝様を閉じ込めていたんだ。彼の小さな世界を守ることで。
「リインフォース、ね」
「……あたり」
意外にもアスラは楽しそうにしている。
私としたことが、こんなことも見抜けないとは。魔術じゃない。これは、アスラの能力だ。自分の力を最大限に引き出す能力。
アスラは人間じゃないのだろう。いや、元は人間だった。その線が強い。どこか違う。その理由は知らない。きっと彼が雪羽に固執する理由と関係してくるのだろう。
そんなことどうでもいい。
私は勝たなければいけない。いや、勝ちたいんだ。
まだ、終わっていない。何もかも解決していない。だから、負けない。
守るものがある。一緒に居たい人間が居る。まだ見守っていたい人が居る。
だから負けない。
私は負けない。
「——————雹結」
何でもできそうな気がした。するんだ。私は何でもできる。なんにでもなれる。
だってこれほどに体が高ぶっている。自分の気持ちを受け入れることがこれほど楽なことだとは。
見ていてくれ。
そこでいつもように、掌の中で踊る私たちのことを見ていてくれ。
必ず、助けて見せる。
この小さな世界から、貴方を。
腰から小刀を抜いた。左手でヒダリへの指示を出す。
「まだ魔術を使うのかよ」
ヒダリが動かないことをいいことにジャルドが話しかけてくる。
集中を乱そうとしているのだろうが、今は乱れない自信があった。
体が熱い。少しだけアンダープラネットに触れたせいで、魔力が上がっているのか。近いところに居るから声が届きやすいのかもしれない。
自分がどこに居るのか、よくわからない。
アンダープラネットなのか、こっちの世界なのか。
だがこれで勝てるならそれでいい。
最後に生きていればそれで。
「……凍葬」
アスラの瞳が見開かれる。
詠唱を捨てた私に驚きを隠せないみたいだ。
私でも驚いている。
落ち着いている。
それなのに、アンダープラネッターは大人しくいうことをきいてくれている。
〜つづく〜
八十話目です。
全然終わらない。
びっくりするくらい終わらない。
まだまだ終わらない。