複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.347 )
日時: 2013/04/06 17:48
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



81・A fool answers.


何が起きているのかわからない。
おれはバカだから、良くわからない。少なくとも、ムーヴィやライアーよりは状況が理解できていない。

でも、おれと似ている。
この心臓の震えはここに居る人物の中でおれしか感じていないと思う。いや、おれでしか感じることができない。
ロムがアンダープラネットに引きずり込まれそうになった時に発した、悲鳴にもうめき声にもとれる口から洩れた音。
あれは、おれでも出せる。
rinに呼ばれた時におれのなにかが弾けて、血が疼いた。
おれのなかのビーストの血。父親の、血。
そのときに発したおれの声に似ているんだ。
どういうことなんだろうか。
ビーストの血が混ざるおれと、アンダープラネットに揺れた彼女の声。
なぜ、似る。


 + + + +


息が凍るほどに冷たい。足元に白い霜が降りる。でも動くことができる。
瞬きはできなくなった。眼球が凍りついているみたいだ。
右腕のナイフが氷でコーティングされ、強度と殺傷能力が増加する。

魔術を発動させた者を氷で取り囲み、まるで埋葬するかのように閉じ込める。そして、その魔術を使う相手をも埋葬する。
乱暴で扱いが難しい雹結が扱う魔術の中で唯一しなやかで美しくて、そして使うものによっては穏やかな魔術。

「行くわよ」

右腕をふるうと、白い冷気が弧を描くように渦巻いた。
私が体を動かすたびに、足元の霜が広がっていく。
そんな私に構う暇もなくジャルドには左が襲いかかる。そしてアスラは私にしか中を向けていない。
私は負けない。負けるつもりはない。
アンダープラネットが味方に付いた。そう考えておかしくないはずだ。自分自身の魔力が上がっている。多少無理しても、アンダープラネットに連れて行かれる心配はなさそうだ。
使えと言っている。アンダープラネッターが私に囁いている。

『俺の力をつかえ、ためらうな、恐怖を捨てろ、歌え、呼べ、解放しろ——————』

聞こえる。聞こえるんだ。全身に満ちていく。脳みそが揺さぶられていく。細胞が叫んでいる。

楽しい、楽しい、楽しい。
今の私なら何でもできる。
だが。
私だけじゃない。
ヒダリが居るんだ。私が指示を出さないと行動できない人形が一つ。
ヒダリは私が居ないとだめだ。私たちはペアなんだから。
彼も、救わないと。雷暝様の人形であるヒダリ。彼の心を取り戻すためにも私は生き残らないといけないのだ。

「ロム。お前、ファミリーネームは?」

「無いといっただろ」

「本当か?」

「しつこいな。無い物は無いんだ。私が生まれたところに、性は必要とされていなかった」

「そうか。なら、いいんだ。自分から捨てたものだと思っていた」

自分のことを話すつもりではなかったが、なんとなく話しても良いと思った。


〜つづく〜


八十一話目です。