複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。 ( No.348 )
日時: 2013/04/07 14:52
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



82・What is not accessible is downward.


彼女の取り巻く空気が一気に変わった。
俺の理解の届かないところで何かが起こっている。すぐ近くにいるあの女の体に何かが起こっている。
詠唱を破棄した彼女だが、今もなお理性を保ちこの世界に存在している。それはきっと、彼女がアンダープラネットに触れ、なおかつ生存しているという事実。
世界的に事例があるかどうかはクイーン・ノーベル辺りに聞かないとわからない。でも特殊な事例ではあるだろう。そして俺も初めて見る。
アンダープラネッターと同調し、詠唱を放棄する。
アンダープラネットに限りなく近く、そして人間に最も遠い。そして何かに対して完全である。

「お前は何のためにあの女を助けようとしているんだ」

少し飲み動きで魔力の変動が起こる。ロムは今魔力が格段に上がっているのだ。
世界全体の魔力は下がっている。それをものともしない彼女の魔力。このまま魔力が世界から消えれば、この魔術に依存した世界は崩壊する。ビーストから身を守るすべがなくなり、犯罪が増加するだろう。
そんな恐れがある中で、彼女は違う。アンダープラネットから直接魔力を引き上げている。

「俺はただ、」

ただ、主人の願いを叶えたいだけだ。
そして彼の無念をこの手で晴らしてやりたい。
まだ主人は生きるべきだった。その未来をつぶされたのだ、あの女に。たった一人に。俺の大事な主人は、殺された。あの女に。
だから許すわけにはいかない。俺の手で殺さないといけない。こんな、他人に利用されて殺されていくのを指をくわえてみているわけにはいかないのだ。

「目的を果たすために居る。俺の願いは、俺でしか叶えることができない」

「……そう」

ロムは何かを言いかけたのだろうが、やめた。きっと自分の話だろう。自分のことを話さないのは警戒心が強い証しだろう。しかし、ただの警戒心だけではない。そんなものは俺に必要ないと判断したようにも思える。
そうだ。お互いの情報なんか必要ない。俺たちに必要なのは勝利という事実だけ。それだけなのだ。
彼女の決意も固まった。そう思える。

「ひとつ、訊いていいか」

「もっと寡黙な男かと思ったけど」

「死を恐怖したことはあるか」

瞬間だった。俺の質問を無視してロムが突っ込んできたのだ。
ジャルドの方を気にしている余裕はない。アイツなら上手くやる。だってあいつにも死ねない理由があるから。もちろん俺にも、ロムにだってある。
氷の刃が迫ってくる。ロムの瞳も凍り付いているようで、視線が冷たい。感情が消え失せているようだ。

「ないわ」

「なら、敗北は」


〜つづく〜


八十二話目です。
サイコパスを今頃見ましたよ……遅いとか言わないで……つまり朱ちゃんがかわいいってことですよね?