複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.355 )
- 日時: 2013/04/15 20:37
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
89・She destroys him.
ロムは動かなくなった。
今まで会った誰よりも、強くて魅力的でくじけなくてまっすぐな女だと思う。俺がこんな性癖を持っていなければ、この女を余裕で抱けたと思う。
俺はこの女が好きだったのだろうか。
自分の左胸をつかむ。苦しい。変な汗が出てきている。
目の前の死体。俺がやった。さっきまで生きていた。雷暝様のために戦って居た。自分の命のために戦っていた。生きていた。俺が殺した。俺が殺した。俺がやった。雷暝様が命令したから。
ソウガ行っておいで。
ガーディアンが泣きそうだった。疑問を口にしていた。今だってしているだろう。アイツはまっすぐだから素直だから美しいから純粋だから。
俺は、いけないことをしたのか。間違えたのか。違う。雷暝様が正しい。正しいんだ。
なんで笑っているんだ。ロムが、笑っている。
『お疲れ様。ソウガよくやった。お前はそんな醜態をさらすなよ』
だってほら。雷暝様が褒めてくれる。俺だけを褒めてくれている。
もっと褒めて下さい。俺をほめてください。俺だけを褒めて下さい。もっと俺は勝つから。この女のように、負けたりなんかしない。こいつは負けたんだ。ロムは負けた。だから死んだ。俺に殺された。それだけの話。同じこと。当然の事。今までと同じ。同じなんだ。
黒い姿だった。
俺の眼下に広がった黒。
ヒダリ。
声を出そうと思った。できなかった。息が詰まっている。
雷暝様が褒めてくれた。
それだけじゃない。何かが俺に声を出すことをためらわせている。
俺は、何をやっているんだ。
生きている。生命活動をしている。
「なに、やってん、だよ……」
そんな声を出せるなんて知らなかった
。現実から離れたような彼の瞳が揺れている。人間だとは思えないのに、人間のように細かい表情。
俺が間違っているといいたいような声だ。
ヒダリがロムに触れる。
指示が無いのに。指示がなければ自分で動くはずもできなかったヒダリが、何かを思って行動している。
俺の役目は終わりだ。無理矢理に体を動かしてレジルたちのもとに戻る。
「なんデ、殺したんだヨ……」
「……みてたでしょ、ロムは負けたんだ。なぁガーディアン、当然のことだろ? 負けたら死ぬんだよ」
確かめるように言葉を選んでいる。
これじゃあまるで俺は認めてほしいみたいじゃないか。自分を認めてほしくてガーディアンに縋っているみたいじゃないか。
ガーディアンなんかに。ガーディアンは小さくて弱くて。雷暝様に逆らえなくて玩具にされていて。
俺にバカにされていたじゃないか。
俺は、何をやっているんだ。
〜つづく〜
八十九話目です。