複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.356 )
日時: 2013/04/16 21:06
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



90・The sword which lost the master.


ガーディアンは俺がロムを殺すなんて思ってもみなかったのだろう。
いつもは平常な光だけを保っている瞳が怒りに満ちて俺に飛び掛かってきた。胸ぐらを掴まれて、その濁りきった桃色の瞳で下から睨み付けられる。
この様子だって雷暝様は楽しそうに見ているのだろう。これが見たかったに違いない。俺は抵抗なんかしなかった。
ただ黙ってガーディアンを見下ろした。

「それはッ! 当然かもしれないけド、仲間じゃんカ!」

俺は大げさにため息をついた。
そして手を出すと思っていなかったのだろう、ガーディアンの白い柔らかな頬を平手打ちした。不意打ちで小さくて細い体が揺れる。髪をつかんで、顔を引き寄せる。
レジルは苦い顔をしている。ヒダリが何をしているかどうかなんて確認できない。雷暝様の顔は想像できる。

「だから、仲間だったんだよ」

自分の喉からせりあがってきたのは自分への吐き気だった。
何やって居るんだよ、俺。ガーディアンを叱ったりなんかして。俺は優しいままで居るって決めたじゃないか。
彼の瞳にうっすらと涙の膜が張った。
髪を離して優しく整えてやる。何度か頭を撫ででその場を立ち去ることにした。今はここに居たくない。何だか気分が悪いのだ。


 + + + + 


目の前の光景を受け入れる事なんか出来るはずもなかった。
ロムは確かに強かった。あのアンダープラネットに接続することをもっと研究して自分のものにすることができていたのなら、俺を倒すことはたやすかったはずだ。
俺が死んでいた。
ロムは死んだんだ。俺に隙を見せたことで。自分の力をうまく利用することができなくて。

ジャルドが警戒している。ヒダリはロムの側から微動だにしない。

「アスラ。お疲れ。お前は間違ってない」

黒い瞳だった。雪羽の方がもっと不思議な色をしているが、安心が出来た。
俺は間違えていない。そう思うということは、こいつの言葉に安心しているということは俺は不安だったんだ。自分が間違えたんじゃないかと。
俺は勝てばよかった。勝ったんだ。でも、俺が勝てばロムは必ず死ぬ。それを知らなかった。
眩暈がしそうだった。
生き残らせたつもりだった。情けをかけたんだ。同情した。負けるロムに同情をした。
負けるわけにはいかないと彼女は言った。死ぬわけにはいかない。

『ヒダリ。まだ終わっていないよ。あぁ、脳みそが必要なんだね』

はっとした。まだおわっていない。この男が居る。ヒダリ。でも脳みそを失った。指示する人間が居ないとだめなはずだ。

遠くで雷暝の声が笑った。何かを孕んだ、不快な笑い声だった。


〜つづく〜


九十話目です。