複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.358 )
- 日時: 2013/04/21 14:12
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
92・An uncertain existence.
ヒダリの人間の形が崩れた。
背中からでかい翼が付きだした。ビーストのそれのような、血管が浮きだした黒いもの。白い突起が付きだした翼。そこから広がるように胴体が膨らんで服を弾き飛ばして、尻の辺りから妙に平たい尻尾が出現する。黒光りする鱗のようなものに覆われた体から、体にはあまり合わない細い足が二本飛び出して、小さな手も出てくる。顔も口が裂けて目が横に行き、白い角が付きだして。
巨大だった。
アスラと二人で見上げてしまう。
ヒダリだったものが翼を広げると、周りの観客席に当たり破壊される。
でかすぎる。腕輪は確認できる。手首は人間の大きさのままなのか。
それにしても、どこからどう見てもドラゴンだ。ドラゴンなんてこの世には存在しないはずだ。居たとしてもそれはビーストがドラゴンに似ているというだけで、ドラゴンではない。
変わりないヒダリだったものの赤い瞳。
人の形にもなれるドラゴン。聞いたことがない。
突風が吹き荒れる。踏ん張っても、後ろに引きずられる。
ドラゴンが吠えた。空気を揺らして、翼をはためかせて。
「あんなの、どうしたらいいんだよ……」
思わずつぶやいた言葉だ。
ヒダリだった者の足元にあるロムの死体。まるで守っているかのようだ。
解放しろと言われていた。言葉が理解できない訳ではないのか。ロムの指示が言葉ではなかったのに対して意味は無いのか。確かに言葉で指示を出してしまったらヒダリの動きが読まれてしまう可能性がある。
「斬るぞ」
アスラが俺を見ている。明らかに気圧されている俺とは違って、まっすぐだ。
まだあきらめていない。
でも、こんなのどうしたら。斬るって言ったって、こんなでかい奴のどこを切ればいいのかなんて。
俺は自分の頭を刀の柄で殴りつけた。何を言っているんだ俺は。
カンコのところに戻らないと。ライアーの力にならないと。
勝たないといけない。ヒダリがそれで死ぬことになっても、それは俺たちが強かったからだ。ただそれだけの話だ。
迷うな。斬ればいい。どこを。簡単だ。あの細い腕を。腕輪が付いているところを。腕輪を回収すればいい。
アスラの目のメモリが動いている。
俺は頷いて笑ってやる。
長い長い咆哮が終了した。
「で、あれはなんなんだよ」
「ドラゴンだろ」
アスラになんとなく問いてみると、そんなつまらない返答が帰ってきた。
刀を構えながら、ヒダリだったものを見据えて動きをうかがう。ドラゴンの大きな口から覗く派は鋭くびっしりと口内を覆っている。
「ドラゴンなのはわかるって実在するわけ?」
「ここに実在している」
〜つづく〜
九十二話目です。
これはこの章だけで百話超えますね確実に。