複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.361 )
- 日時: 2013/04/27 21:55
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
95・Change in the world, and her meaning.
「人の形になることができるビーストなんて聞いたことがあるか?」
「確かにないですね」
まだこの世界にはよく知られていないビーストは存在するかもしれない。予想もされてこなかった。人の形になり、人の言葉を理解して動くビーストなんか。理性だってない獣であるビーストにそんな可能性は無いと思われていた。
ヒダリは確かに今自分の意思を持っていると思う。なぜなら、ロムの死体を守るようにそこから離れようとしないからだ。彼女を守ろうという考えが彼の中に生まれているのだろう。間違いかもしれない。だがそうとしか考えることができない。
この世界で、一体何が起きているんだ。
赤の時代、レッドエイジを起こそうと擦る雷暝。アンダープラネットとリンクすることができた女。
魔力が全体的に弱まっていることで、魔術が発動しづらくなっている。魔術師である俺が感じている違和感。この世界自体の魔力が弱くなれば、俺たちにはどうすることもできない。
いったい、なぜ今。今じゃなくてはいけない理由があるのか。
それか、もしかしたら、世界のどこかに魔力が集中して居るのか。偏りが生まれているのか。
小さな俺には全く想像もできない。
でも、母さんなら。母さんは今罰せられて封印されている。それに母さんに何かを教えてもらうために封印を解いたら、母さんはきっと赤の時代をまた追い求めるだろう。
赤の時代への扉と鍵。それが俺たち。
まだ世界を終わらせるわけにはいかない。
だから勝たなければならない。絶対条件だ。
雷暝たちの思い通りになるわけにはいかない。
「……何で私がここに居るんですか。雷暝さんが言っていました。私は扉なんだそうです。私は私自身の価値を知っていないんだそうです」
アイツは雪羽にそんなことを言ったのか。
彼女が悩むのも無理はない。いきなりこんなところに連れてこられて、訳の分からない現実を突きつけられているのだから。
このままでは失敗する。
この女から感じる嫌な感じ。まだ消えていない嫌な感じ。彼女自身気付いては居ないだろうが、極端に勘が鋭くて周りの雰囲気を感じやすい奴ならすぐにわかる、彼女の違和感。
雪羽は今、ここに居るのか。
ぶれているような感じなのだ。存在がぶれて、落ち着いていない感じ。
俺は視線を下に向けた。
あの二人の姿を確認しようとしても無理だ。ドラゴンしか見えない。
「お前の価値はお前が決めるものだろう」
「そうですよね。私が私の価値を決めるんです。なら私はただの初心者ハンターですよ」
ほっとしたように言葉を続ける雪羽。
彼女の顔を見ることができなかった。
〜つづく〜
九十五話目です。