複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.362 )
日時: 2013/04/28 17:05
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)



96・He does not forget hate.


死ぬ?俺が、死ぬ?
有り得ない。俺は死なない。死ぬわけにはいかない。
この世界に、不死というものは存在しない。だけど、俺は死なない。滅多のことじゃあ死なない。
なぜなら俺にはマスターが居る。マスターはあの女に殺されて死んでしまったけれど、それはいつか必ず訪れることだったのだ。
俺は少しのことでは死なない。完璧な人間ではないから。
マスターはこの世にはいない。でも俺が居るから。だから死ねない。
不死は居ない。しかし、例外はある。
その存在を、俺は。

「ジャルド、いくぞ!」

姿が浮かんだ。黒髪だった。小さな体だった。
あの姿は、なんだ。
真っ赤な世界の中で、ただ一つ異様な雰囲気を身にまとうその姿を振り切るように俺は叫んだ。

思い出してはいけない。
あの日のことを、あの時代のことを。
二度と、思い出してはいけない。
いや、それは弱さだ。逃亡だ。
思い出せ、あの日のことを。
そして憎め、忘れるな。あの女がしたことを忘れるな。

歯を噛み締めすぎて変な音がした。

「おい! 突っ込みすぎるなよ!」

知るか、くそ。

大きく振りかぶって来たのはドラゴンのしっぽだ。かなり重量感がありそれでいて速い。しかし、人間の形だったヒダリよりも遅い。
そのはずだったのに、反応が遅れた。
咄嗟にリインフォースを発動させる。
自分の力を伸ばして跳躍。しかし足が引っ掛かったのでバランスを崩した。素早くジャルドが飛び込んできて援護のために刀を構える。

「突っ込みすぎるなって! どうしたんだ!?」

「お前は知らない。あの時代を知らない。ここに居る人間のほとんどがあの時代を知らない」

冷静さに欠けていると思う。
自分が興奮している。
おかしい。あの赤を思い出すだけで、血が熱くなってくる。
良くないことだ。まだあの時代はこうやって、今も残ろうとしている。世界に手をかけている。忍び込もうとしている。
それを許してはいけない。
雷暝は、知らない。アイツはただ盲目的に今の世界に変動を与えようとしているだけだ。
そうでなければ、あの時代を知っていれば、こんなことはしない。
バカめ。バカめ、大ばか者め。くそだ。消えろ。
あんな時代、もう必要ない。

「アスラ、お前は知っているっていうのか……?」

躊躇した。しかし頷いた。
俺は知っている。あの時代を知っている。
そして、あの時代に生きていた人間たちのこと。そして、あの黒も。
傍観者のような小さな影も。

「教えてくれないか。いったい、何があったんだよ」

「……あとでな」


〜つづく〜


九十六話目です。
近付いてきましたね。