複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.364 )
日時: 2013/05/02 20:31
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)


98・One's true character.


人の信頼を得る時の条件としては、多く言葉を出すことだ。とりとめのないことが好ましい。何となく会話をする。自分のとりとめのないことをさらけ出すことで相手に安心感を与えて、相手の情報も同時に引き出して行く。
まずは小さなことから交換する。そして重要なことは語らない。それが自分にとってどうでもいいことだとしても、大きなことについては話さない。自分の口に固さを出していく。
自分の価値観よりも、世界の常識を優先する。

それをする奴がいる。
そいつは世界の裏側を支配しているような、すべてを知っているかのように物知りで口が堅い。しかし、金が入ると喋る。金の分だけ情報を吐き出す。
そいつと会ったことは無い。
情報のやり取りはすべて手紙で、声も名前も知らない。手紙の文章の印象から性別を推測することもできない。そもそも、その文字をそいつが書いたということさえもわからない。
しかし、手紙を月の粉と呼ばれる、あるギガントの羽の鱗粉を溶かした熱湯に浸すと文字が消えるのだ。月の粉は魔術を発動させるときの道具としても使われることがある。
手紙に魔術をかけ、情報を消すということはそいつしかしない。
そいつしかその魔術の方法を知らないのだ。どうやってかけているのか、あのクイーン・ノーベルすらも推測できないらしい。
誰か優秀な魔術師を雇っているのかもしれない。少なくとも、そいつから出された手紙である証明にはなる。

『それは言えないな』

だからワタシは黙った。

ロムが死んだ。そしてヒダリの姿を晒す羽目になった。
なんてことだ、これほど手こずるとは思わなかった。
ヒダリが負けることは無い。負ける事になっても、でももうでもいい。
どちらにせよ、楽しみだ。これはゲームなのだ。何人かの命がかかっているだけの、ただのゲームで、暇つぶし。

観客席の赤い髪を見上げてやる。
彼はまっすぐに下を見下ろしていた。ワタシがここに居ることに気付いているのか。

なぁ、ライアー。レッドライアー。赤い嘘つき。
お前はなぜ、自分の二つ名に嘘吐きなんて言葉が入っているのか知っているのか。何か隠していることがあるのか。
その名前は、クオが付けたのだろう。ライアーのその名前はクオから与えられたものだろう。
お前の本当の名前はなんなんだ。二つ名ではなく自分の名前。訊いてやろう。ワタシがこのゲームで勝利した時に訊いてやろう。
クオはなぜ、お前にそんな名前を与えたのだと思う。

お前はどう思う?
自分のことを、どう思う?


〜つづく〜


九十八話目です。