複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.365 )
- 日時: 2013/05/02 21:29
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
99・Good night, a best person.
なぁ、ヒダリ。
本当は、答えたかった。
そうだろ、ヒダリ。
でも、自分は言葉をつかえないから。自分の意思を外に出してはいけないから。
もう、いいだろ。
許してくれよ。
もう答えることもできない。
ごめんなさい。
飛行船から落ちた時のこと、ごめんなさい。
貴女が落ちるとわかった途端、居てもたってもいられなかった。貴女を助けたいと思ったんだ。
貴女が居ないと、自分はただの人形でしかないから。人の言葉がいまいち分からない自分に、貴女は指の音で指示を出してくれていた。モールス信号を少しだけ変えたようなもので。
それだけではなかったのだと、思う。
思う、思うよ。
自分は今、自分の考えを知っている。
何を考えているのか。
勝利だ。
ロムが死んだ。殺された。コイツ等に殺された。
許せない。
だから、自分は。
雷暝様の為じゃない。
はっきりとわかった。
自分のためだ。
自分のために、この胸の曇りを晴らすために、やるんだ。
やれ。
「——————!!」
咆哮だ。
大地を揺るがすほどの鳴き声。
喉を震わせて青空を仰ぐ。
といっても、空の色がはっきりとわかるほど自分の目は良くできていない。この姿になると、視力が落ちる。嗅覚と聴覚が発達する。
何か、言っているな。
自分に関してのことだからだろうな。
どうせ、化け物だとか言っているんだろ。
『お前は、その姿なら美しい。思い通りになるお前は、気分がいいぞ、ヒダリ』
彼女はそういった。
貴女はそういってくれた。
初めてだったんだ。自分の姿をみて否定をしなかったのは。
自分が生まれた村では自分は神様と同じだった。
変な重い服を着せられて、よくこの姿にさせられて、崇められ奉られて。
でも自分はたった一人だった。自分が生まれてきた卵の殻は王冠の形の髪飾りに加工されて自分の頭に乗せられていた。
聞き取れないほど歪んだ言葉で自分を呼び、涙を流して掌をこすり合わせる村の人たち。
なぁ、教えてくれよ。
人の言葉の意味を、自分の名前を、意志の主張の仕方を、自分がここに居る意味を、言葉のだし方を、自分の正体を。
「——R——o—————M」
あぁ、瞼が熱い。
この名前を口にするだけで、これほど熱くなるとは思わなかった。
雷暝様のことは嫌いでも好きでもない。なぜなら、自分の側に居てくれたのはロムが一番だったからだ。
雷暝様に連れられてここにやってきて、正体をロムに見せて。
ヒダリ、と呼ばれて。
足元に駆け寄ってきた小さな影を踏み潰すかのように足を踏み鳴らした。
負けるわけにはいかない。
彼女が守ろうとしたものを、自分が守らなければならない。
〜つづく〜
九十九話目です。
あーあ。