複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.366 )
- 日時: 2013/05/05 13:50
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: JbG8aaI6)
100・A battlefield is your world.
自分が居なくなった世界は想像できない。でも、大切な人が居なくなる想像は何時でもできるのだ。ふとした瞬間に、それがよぎる。彼女が居なくなった世界。
カンコ。
俺を見ていてくれるか。お前が居なくなった事も、俺のことをお前が見ないことも耐えられないよ。
俺は確かにもう、溺れているのかもしれない。彼女に魅せられているのかもしれない。
人間は、手に入らないものほど美しく見えるらしい。手に入った途端、どうでもよくなるらしい。
実際そうなのだろう。俺は貪欲だ。カンコが欲しい。いつまでも彼女は俺の手の中には入ってこない。
その事実が、彼女をより美しく見せるのだろう。
ドラゴンが首を振る。すると赤い眼光が糸を引き、空中にとどまった。有り得ない現象すらも、この生物の前だと全て常識のように感じてくる。
停止していた眼光がちぎれ、無数の針の雨となって降り注ぐ。
俺はとっさに剣を構え、すべてをはじく。しかし途中、刀身が欠けた。
ハラダ・ファン・ゴの血を引くファゴーが作ったもので、そこらの物よりは丈夫で切れ味がいいものだ。愛用していたので、毎日手入れをしていた。今日はあまり切っていないので血の汚れは少ない方だ。
こんなところで、欠けるなんて。買いなおしたい。
舌打ちをした瞬間、二の腕の辺りを赤い針が霞める。
地面に突き刺さった針は液体となって弾けた。血液の垢よりももっと薄いもの。地面が赤くなった。
異様な光景だった。
「化け物が……」
魔術でもなく、いとも簡単にこんな事をして見せやがって。
見れば、アスラは赤い針に構うことなく突進していた。
冷静さに欠けているかもしれない。しかし、ここはいっそ彼に任せる方がいいのかもしれない。
考えろ。
冷静でいろよ。なんで俺はこんなに慌てているんだ。
手が震えている。
ヒダリ、でかい。化け物だ。勝てないかもしれない。勝てという。勝たないといけない。
自分が自分を追い詰めてくる。この現状が、このステージが。すべてが俺を苦しめて。
顎を伝って和えが滑り落ちる。
聞こえないはずの銃声が聞こえて来る。自分のすぐそばに人が居るようだ。自分の喉元に、刃物があるようだ。足が泥に沈んでいくように重い。
俺は、諦めかけているのかもしれない。自分の言葉は軽い。軽すぎる。
勝て。勝とう。勝たないと。勝てよ。
自分を奮い立たせることができない。俺は。
迷っちゃいけない。
意識が飛んだと思った。
考えている暇なんてなかったのだ。弱気になる暇も、何も与えられてなんかいなかった。
何をやっているんだ。
「アスラ! 俺も行く!」
〜つづく〜
百話目です。
やっぱりいきましたね。