複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.367 )
日時: 2013/05/10 21:25
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



101・The battlefield at that time, feeling.


ドワーフに属するビーストで、さまざまな色をした紙のように薄い羽を六枚持つ種類がある。妙な細かい粉をまき散らしながら空を飛ぶことができるのだが、熱に弱く、日が沈んだ夜から活動を始めるのが普通だ。
そいつらの撒く粉は月光のもとにさらされるとキラキラと光る。そしてそいつらは、どういうわけか光に集まるという習性があった。
夜の街灯に、よくたかっている。だが、そのわずかな光による熱ででも体力を消耗してしまう。それでもその光の魅力から逃れることができずに、羽を焦がし死んでいくのだ。朝になると、都会では森側の街灯の下に大量に残されたそのドワーフの死体を回収している。
そいつらがむなしく舞い散っていく光景は、美しい。都会ではありふれた光景でも、田舎からやって来たものからしてみたら、その光景は美しいということができる。
無数の鱗粉が街灯の光でキラキラと光り、六枚の羽根が街灯の光を遮り、無表情なコンクリートの道路を彩る。

「哀れな」

それのことを思い出すと、ジャルドのことを思い出す。

わが娘を振り回している。だがしかし、今だけはそんな彼の味方をすることができる。

「雷暝、か」

ばかものめ。
あの時代に手を出してはいけない。この世界を壊されるわけにはいかない。
だから私も、あの男のしようとしていることは止めないといけない。
それでも動かないのは、ジャルドとカンコが居るからだ。大丈夫、あの二人が居ると妙に安心感が湧いてくる。


 + + + +


内臓の味か。そう思うほど口の中に広がる血の味が濃い。何度吐きだそうとしたかわからない。大して口の中は乾ききっていて、吐き出せることは無かった。
何度も赤い雨を浴びて体力と集中力を削られてくる。
下手に手が出せない。冷静さを取り戻したアスラと俺は、機械を探しているうちに自信の傷を抉っていた。

「……っ」

しかし、こうやって耐えている間にも、ヒダリも消耗しているに違いなかった。
何度も攻撃をしている瞳から、赤い涙があふれ出てきているのだ。吠えることは無くなった。
一粒、雫となったそれが滑り落ち、ロムのすぐそばではじけた。
瞬間、アスラが飛び出した。様子をうかがっていればいいはずだった。弱気になっていたわけじゃない、アスラも俺も、傷を負いすぎている。このまま少しだけでも休息を取りたかった。
甘えか。違う。信じたい。

まよった。俺は飛び出さなかった。代わりに、駆け寄った。ロムの死体だ。
とっさに選んだ優先順位。ヒダリの判断は、俺の方を脅威とみなした。

俺への攻撃が集中。
足が重たい。言っていられない。息がきれている。
昔のようだ。いくつもの機関銃の銃口が、俺を的としか見ていない目が。
くそが。くそったれ。
俺は紳士なんだ。あのときのことは、忘れろ。
背中が熱い。この熱はきっと、あのときの物だ。忘れない。
これだけは、忘れてはいけない。


〜つづく〜


百一話目です。
拾えなさそうな伏線を。