複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.368 )
- 日時: 2013/05/12 13:11
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
102・Offense and defense, inattention, this body.
リインフォースの反動で、体が軋んでいるのが分かる。
長年使い続けてきたこの体が、悲鳴をあげている。構うものか。
この体は、俺が俺である証拠であり、あの時俺が俺でいた証拠であり、俺が俺であり続ける理由である。
たくさんの理由を、こじつけを含んで重たくなったこの体を動かして、雨を浴びていく。
皮膚を裂き、腐りかけの血液が飛び出していく。
今俺の姿は、あの女には見えていないのだろうな。
ドラゴンの体であの赤い女の目には、あの黒い瞳には映ることは無い。
しかし、それでいいのだ。それでいい。大丈夫だ。まるで暗示のように繰り返していく。
捨てたくはない。この体を捨てたくはない。でも、この体を捨ててまでも、俺は生きなくちゃいけなかった。この精神だけでも、保ち続けなければならなかった。
人はみんな、理由を持って生きてる。自己嫌悪で潰れそうになりながら、強さと弱さを抱え込んで、誰かに憧れながら、自分を信じながら裏切りながら生きていく。息を吸って、吐いて。それを放棄していない。
俺も同じだ。
マスター。俺は生きていますあなたが死んだ後でも生きています。あなたも同時に、俺と一緒に生きているのです。
だから大丈夫です。この世界は、二度と赤くなりません。俺が居るから。
あなたを愛した俺が。
今、助けてやるから。勝ってやるから。それでこの手で、殺してやるから。この世界のすべての苦しみを与えて殺してやるから。一度ぶち犯してやるから。
だからそこで待っていろよ。
うすい青色の瞳の中のメモリでヒダリを分析する。体力を消耗し続けている。
しかも、ジャルドが気を引いた。
彼にすべての攻撃が集中し、危険状態。しかし無視。突進。攻撃準備。リインフォース発動。心拍数、上昇。筋力、上昇。瞬発力、判断力、ともに上昇。精神状態、正常。呼吸、安定。視界、良好。聴力、良好。
言葉は必要ない。躊躇いも必要ない。
ヒダリが屈む。目で攻撃はできなくなったらしい。
これはチャンスだ。
ステップ。片足でバランスを取りながら飛ぶ。屈んだヒダリの左足に一度着地し、再び飛ぶ。
彼の腕輪を、腕ごと切り落とす。右腕に神経を集中させる。軽く変形し、鋭さを増す。
右腕で、ヒダリの腕に触れ傷をつけた瞬間だった。周囲の鱗がめくれ上がり、俺に向かって吹き飛んできたのだ。
今、ジャルドに気が向いていると思っていた。油断したのだ。
空中での回避は難しい。とっさに顔をかばったのだが、顔を覆った腕、足、腹の傷に黒い鱗が突き刺さり、吹き飛ばされる。痛みで何も考えることができない。
〜つづく〜
百二話目です。