複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.369 )
- 日時: 2013/05/14 21:49
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
103・At the time of fortunate death.
状況確認を急げ。脳は冷静だ。体への負担は大きい。傷が痛む。リインフォースの反動がひどい。骨が軋んでいる。鱗で右目が破壊された。
空中で一回転し、壁にたたきつけられる。脳みそが揺れて、まともに衝撃を分散させることもできずに内臓がせりあがってきた。たまらなくて吐き出すと、酷い量だった。
視界が悪い。赤い。血だ。
滑り落ちていく自分の体。再び今度は地面にたたきつけられる。
おかしい。呼吸ができていない。
思ったよりも、損傷が激しい。
視界の端で、自分のコードが揺れている。力のこもらない拳を握りしめようとしても、真っ赤な視界の中では指先しか動いていなかった。
なんだ、これ。油断したのか。
俺は、失敗したのか。
眠たい。
『アスラ』
……マスター?
違う。
もっと高い声だった。
女のような、少年のような。
アイツの、声だ。何度も聞いたわけじゃない。しかし、確かに耳の中に残っている声だ。
真っ赤に染まった世界の傍観者。あの影だ。あの影の声だった。
なんで俺の名前を知っているんだ。どうして、俺に話しかけてくるんだよ。
『君はきっと、理解できないのだろうね。だけど、彼女は……』
「アスラ!!」
ぼやっとした視界の向こう側で、燕の声がする。
そうか。ライアーたちが居るところの真下なのか。
なんだ、俺。何してんだ。
彼女って、アイツのことか。
あの女のことか。
俺からマスターを奪ったあの女のことか。
理解しろ、なんて無理だ。あの女は、俺からすべてを奪ったのだ。それに理由があろうとなかろうとどうでも良い。それで俺の目的が変わるわけじゃ無いのだから。
掌で土をつかみ取る。爪が削れている。知るか。
太ももの鱗を乱暴につかんで引き抜く。それを口に含んで噛み締める。
ああくそ、なんでこんな原始的な方法で力を込めなくちゃいけないんだ。
掌の細かい鱗が邪魔だ。引き抜く。
「戦える。戦える。まだだ。まだ、まだ……」
自己暗示に近い。体が熱くなる。
俺の体の仕組みは、凡人とは少し違う。完璧に人じゃない。悪いところを必死で繋ぎ止めるように縫い付けたようなおんぼろだ。
それでも、生きている。
こんな心境だったのか。
死んだロムも、死ぬ寸前まで自分がまだ戦えると信じていたのか。それとも、自分の死を受け止めていたのか。
彼女はきっと強かった。だからきっと、落ち着いていたのか。でも、泣いていた。
マスターも、死を恐怖しましたか。どうでしたか。マスターは最後まで、何を考えていたんですか。
〜つづく〜
百三話目です。