複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.370 )
日時: 2013/05/16 21:20
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



104・The life for the first time in one.


ロムの死体に駆け寄った俺を標的として定め、他には目がいかないと思っていた。目がいかない代わりに違う方法でアスラをも対応した。
理性があることがこれだヶ厄介だとは。仕事上、人を相手にすることが多い俺だが、獣の姿をしたヒダリに理性があると頭が混乱してくる。
状況把握は完ぺきに出来ているはずなのだが、それでも緊張と焦りが出てきているのか。
アスラが飛ばされて、致命傷を負った。これからは一人で戦うしかない。アイツは立とうとしている。達ち上がる前に、決着をつけよう。
ヒダリは今前かがみだ。俺でも、いける。

ロムの側から俺を排除しようとヒダリの鱗がめくれ上がり、俺に襲い掛かってくる。しかし、その攻撃はもう見た。
刃零れを起こしている刀を使ってそれを裁く。小さい怪我は気にしない。貫通はしないのだ。つきさされば、出血の心配はあまりいらない。
血が足りない。しかし、やるしかなかった。たちどまっている暇は、休んでいる暇はない。アスラに無理をさせるわけにはいかないのだ。
前かがみになっているヒダリの手首。傷があるアスラが付けた傷。位置は高い。限界かもしれない。

片手の鞘に刀身を収める。
もっとも、威力がある技を。全身全霊を込めて。慈愛と、丁寧さと、憐れみと、同情と。そんな負の感情をすべてこめて。俺の最高の一撃を。一発で。紳士というのには、スーツで繰り出すには、少し不恰好で大胆すぎるこの技を。
最後の最後まで、負けようとしなかったお前に。最後まで、生き抜いたお前に。何を考えているのか、何が望みなのかわからないお前に。

ヒダリ。
お前に。

「懺悔血刻、涙」

俺は人間でしかない。しかし、ただの人間ではないと自覚している。いや、アスラやヒダリや、カーネイジ・マーマンの連中ほどではないし、ライアーのように謎な部分が多いわけでも無いが。
人間であり、ただの人間ではない。人間の汚い部分を知っているのだと思う。ただのんびりと生きてきたわけじゃない。
天と地を知っているのだ。戦場という地と、カンコという天を。

「——————」

悲鳴のようだった。彼にとって、それは悲鳴だったんだ。そうに違いなかった。
一口に赤とは言えない、紫が混じったような色をした粘着性の強い液体。空に舞い、地面を汚す。確かな手ごたえと、折れた刀身。途切れた銀色。静寂。空。青だ。汗。
俺は、倒れたようだ。

居合い。
空中で鞘から刀を抜き、その勢いのまま獲物を切り裂く。
シンプルに見えるが、タイミング、角度、体のバランス、そして刀の良しあし。全てが美しいと、最高の威力を誇る技。

それで化け物を、ヒダリを、屠った。


〜つづく〜


百四話目です。