複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.372 )
日時: 2013/05/21 21:02
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)


106・A continuation of a party is a smell of blood.


精一杯だったといえるだろうか。
自分は、自分のすべてを出せただろうか。自分の力はまだ残っていないのだろうか。まだできたことがあるんじゃないだろうか。
一瞬だった。自分の永遠にも近い何かが壊された気分だった。穏やかで、そして穏やかじゃない。
自分は負けてしまった。死ぬんだ。ロムのように。自分のすぐそばにロムが居る。
そっと、抱き寄せた。硬くて冷たい。
守ろうと思っていたものだった。守ろうとしていたんだ。自分は守りたかったんだ。自分の居場所である彼女を。それを失った。
どうかしていた。もっと冷静な判断をしていれば。

ガーディアンは、倒れている自分を見下ろしている。
涙が落ちてきている。自分を殺すことに躊躇している。
しかし、殺さないといけない。
雷暝様の命令だから。絶対なのだ。自分たちを求めてくれていたかは知らない。でも、確かに自分は雷鳴様とロムを必要としていた。
だから。

「ヒダリくン」

それは自分のあだ名だった。左利きだから。
左腕が残っていてよかった。彼女の体を引き寄せることは簡単だから。

右腕の肘から先が全くない。赤色の血液が、どろどろと流れ出ている。

ガーディアンを見上げると、彼の涙が一瞬止まり、また流れて来ていた。
躊躇ってはいけない。自分なんかに、ためらっては。

「ありがとウ、絶対勝つからネ……こっちガ、必ズ……」

涙がいっぱいで、それでも雷暝様への否定の言葉は口にしない。

見えない何かで縛られているのだ。間違った常識が愛として、ガーディアンにしみわたっている。
きっと、自分も、そして、ロムも。
ここに居るすべての人間には暗示が掛けられている。雷暝様から逃げられない。そういう風に考えるようにされている。
薬も、魔術も使わない。
それは雷暝様の言葉だけで縛られる快感。

「二人とモ、大好キ……ちゃんト、埋めてあげるからネ」

最後に訊いた言葉は、とても信用できる物じゃなかった。

そうだな、二人で埋めてほしい。ずっとずっと、一緒に居られるように。右腕を亡くした自分でも守れる位置に、彼女を埋めてくれ。
そして欲を言うなら、ここに居るみんなが見える位置がいい。

愛していた。
全てと言って、偽りない。


 + + + +


お疲れ。
ライアーの唇は確かにそう動いた。

「……応急処置でよかったら、する」

湖のような髪を揺らしてカンコは言った。
ジャルドの意識は無い。
全身傷だらけでも勝った。
カンコは血と泥と汗で滲んだジャルドの頬に小さくキスを落として、先にアスラの治療から始めた。
治癒魔法は苦手なようで、時間がかかっていたが冷静な彼女のことだ、問題は無い。

おれはそっと出口の扉を開けた。


〜つづく〜


百六話目です。

二戦目です。