複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.374 )
日時: 2013/05/25 13:48
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



108・The pain is overcome for you on the back.


獲物を狩るような鋭い目つきをする。
それはきっと、おれの父親にあたるビーストのちによるものだ。
おれは穢れている。
相手は知らない。おれがこんな体だということを。

『レジル、悲しいか?』

雷暝の声。
もう聞き飽きた。もう黙れよ、お前。静かにしていろよ。
おれたちは、大事な物をかけて戦うんだ。目指すものがあって、大切な物があって、守りたいものがあって、それでここに立っているんだ。
レジルの守るものは、大切なものは雷暝なのかもしれないけれど、でもそれでいいじゃないか。守るものがどんなものであっても、守ろうとするのは素敵なことだと思う。

おれのことを守ろうとしてくれた女。
お母さん。おれのたった一人の家族だった。
一番大切だった。過去形だ。だってこの世にもうお母さんは居ない。
過去に縋るのはやめるんだ。
前を向く。まっすぐに、前だけを。振り返るのは、時々。思い出を拾うときだけ。それだけで。進まなくちゃいけなくて、ふみださなくちゃいけなくて、そして、踏み越えなくちゃいけない。踏み付けなくちゃいけない。
それが、守るということ。

「……はい」

守る。
おれは、守って見せる。
親方がみている。
おれの姿を見ているから。
負けたくない。
レジルにも、雷暝にも、自分にも。

『……へぇ』

つまらなそうな、でも興味がありそうな嫌な感じだ。

唇がとがって、自然に不愉快そうな表情になってしまう。

『レジル、なんでそんなこと言うんだ? 負けたらゴミ。そんなのは当然だろ。なら、』

「ロムは素敵な女性でした」

驚いた。
レジルは、見た目だけで言うととても冷静そうだ。声音も雰囲気も落ち着いている。
だから知っているはずだ。熟知してるはずだ。どういえば、雷暝のご機嫌をとれるのか。選択できるはずだ。自分の行動、言動。すべて計算できそうなのに。
正直なことを言った。
なんでだ。なんであの暗い緑色の瞳が美しいと思える。まっすぐだから。レジルの瞳を見ていると、雪羽を思い出す。

「頭がよくて、でも気遣いがっできて、冷酷すぎずに、人を操るのが上手くて」

視線はおれにむいている。
おれをみているんだ。

直視されるのが怖かった。俺が汚いのがばれてしまうようで。
怖くない。今の俺はきっと美しい。大丈夫だ。美しいまでいかなくても、普通だ。
だって、こんなにも自分の足が信頼できる。立っていられる。

「ヒダリも純粋でした。彼は、強かったです。戦っている姿は舞いでした」

淡々と語っていく。

大切だったんだ。この人は、ここの空間が、みんなで過ごす時間が大切だったんだ。

涙が頬を伝った。


〜つづく〜


百八話目です。

ヤンデレ下さい。