複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.375 )
日時: 2013/07/17 17:07
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)

109・Solitary God is here.


純粋な気持ちからあふれてくる涙なのだろうと思った。
彼のその子供らしく大きな瞳から流れ出す涙は、俺への同情の物だろう。

嫌だった。
俺たちは悲しくなんてない。俺たちは幸せだった。
本当にそういえるのか。
変な音がするんだ。耳のすぐそばで、羽音を響かせている虫が何匹もいるような音だ。
なんだこれ。なぁ、なんだこれ。教えてくれよ。なんだよこれ。

疑問だ。疑問なのだ。これが疑問だ。
もってしまった。
科学者である俺は、いつからか疑問を持つことがつらくなってしまった。俺たちはここで、雷暝様の願いを叶えるために戦って勝てばいい。
負ければ雷暝様に殺されてしまう。
絶対的な力と服従の中で、俺は考えるという手段をだんだんに失くしてしまって言いっていたのだ。
俺は科学者失格だ。科学者ではなくなっていたのだ。そうに違いなかった。
でも最後まで雷暝様の側に居てあげたいと思った。
彼は本当に哀しい人だから。
ロムもヒダリも負けた。アイツらに負けた。でもアイツらが殺したんじゃない。
雷暝様が殺した。彼の作ったこの小さな世界が、彼らを苦しめ戒め、殺したのだ。

唾が分泌されない。口の中が乾いている。

俺は反抗してしまっている。
雷暝様に。この世界の神に。俺の愛する人に。
愛しています。雷暝様。
洗脳に近いものだ。崇拝。
ここにきて短い方である俺も結局、雷暝様の手から逃れることはできなかった。

「……何を泣いているんだ」

俺は声を掛けてしまった。
燕と名乗ったこの少年は次々と涙を流していく。
乱暴に袖でそれをぬぐい、真っ赤な鼻の頭をふんとならした。

「おれ、バカだ。だからあんま考えない。お前らの気持ちとか全然分かんない。だから、戦う。勝つ!」

確かに、バカだ。
話の筋が何となくずれている。

苦しかった。
あの女を思い出す。
赤い女だ。やけに、赤い女。
黒い髪と黒い瞳をもっている彼女なのに、赤いという印象を受ける。服のせいじゃない。違う何かが、そうさせている。
彼女は扉だ。
彼女はまっすぐだ。

『レジル。おまえがどうしてそんなことをかんがえるようになったのかワタシはとても興味深い。だから負けるな。あとでじっくりときいてやるからな』

小さくうなずいた。

必ず勝って見せます。
そして、証明する。
貴方を助けて見せます。
その孤独から引きずり出して見せます。
必ず、その赤い世界から。

「燕」

「なんだ」

「不思議な髪の色だ」

「は?」


〜つづく〜


百九話目です。
ちょっと短め。