複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.376 )
日時: 2013/05/29 20:01
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



110・It is not interested in an old tale.


少し緑がかった黒髪。深い、海の底にたまる藻のような色だ。
決してきれいとはいえるはずもないその髪を見て、レジルの緑色の瞳が細まった。
どういうつもりなのかは分からない。純粋に褒められた気も、貶された感じもしない。
どういうことなんだろうか。どう返答すべきか悩んでみた結果、黙っていることにした。

「俺は科学者だ」

口を開いたのは彼だった。
少年らしさが残る、ライアーよりも高めの声。男にしては高いその声は、妙に耳に気持ちがよかった。もしかしたら、女であるレドモンと同じくらいかもしれない。レドモンは女にしては低い声をしているから。

そんな声で語りかけて来るそいつは、しっかりとおれくぉ見ている。
少しのことでも嬉しい。おれはここに居る。大丈夫だ。親方の意思をついでここに居る。
いろんなものを守っていかないといけない。頑張ろう。
まずは一歩。確実に、一歩。慎重に、一歩。

「あるところである研究をしていた。科学で魔術をこえる術を探していた」

たんたんと話していくその様子は不気味だった。しかし怖くない。
今までいろんな人間を相手てきた。生きるために。おれの命とか、いろんな他の物を狙ってくる奴から。

本当は知っていた。
なんでおれとお母さんが路地裏でゴミみたいにでも生き残ることが出来ていたのか。
お母さんは、よく夜中に一人でどこかに行っていた。決まっておれが眠ってから。それに気付いてしまったのは、ある夜中に目がふと覚めてしまったからだった。
何となくお母さんの匂いを探して、街の奥深く、闇の世界に足を踏み入れてしまった。
お母さんが居た。
昔のおれは、自分の中の汚らしい血液をどうしていいかわからずにそのままにしていたから、よく半分の状態になっていた。人間でも、獣でもなく、中途ハンパに鼻がよくなって目がよくなって耳が敏感になっていた。
お母さんの臭いが変になっていた。いろんな男が、人間の男がたかっていた。そんな感じ。
意味が分からなくて、必死で戻って眠ろうとした。眠れる訳がなかった。
何をしていたのか、訊けるはずもなかった。
お母さんは綺麗な人だった。美しい顔で、汚い手で汚い金を握っていた。朝には必ず、お母さんがそばにいてくれた。
おれは生きてきた。お母さんのおかげで生き残ってきた。

そんなおれに、レジルは話を聞かせていく。
ききたくなかった。
どうでもよかった。変な感情を抱かないうちに、早く何とかしないといけないとそう思った。

だからおれは、右足で地面を踏み鳴らした。


〜つづく〜


百十話目です。
まだまだまだまだ。