複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.377 )
日時: 2013/06/03 21:05
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



111・You are used and deserted.


不可能。
その一言で片づけられるのだ。俺たちの科学の力は、魔術には及ばない。
そんなことは分かっていた。
それでもみんな、諦めなかった。
俺を含めて、みんな。

魔術は世界を支配している。いまやみんな、魔術に依存している状況にある。魔力が低下して、何かが起ころうとしている今、世界が傾き始めるかもしれない。
魔術からの自立を人類は図らないといけないのだ。一度その便利さを知ってしまったのならもう戻れないのかもしれない。しかし、離れなければ未来は無い。無限にいつまでもアンダープラネットと干渉できる保証はない。アンダープラネットとの回線が切れたら、我々は終わりなのだ。魔術はもう使えない。無理矢理に声を響かせる事なん出来ない。アンダープラネットに潜ることすらできない。体と精神の安全を保証できないのだから。
世界を変えないといけない。世界を。世界を守るために。
雷暝様とは違う。彼の願いは俺の願いでもある。しかし、俺の願いもっと違うところにある。
ガーディアンの存在だ。あの少年とも少女ともいえない子供の戦闘を何度か目の当たりにしてきた。健康状態を管理していたのも俺だ。
俺は何度か目撃している。ガーディアンが、詠唱も道具も使わずに、息を吸うように魔術を発動させるのを。
ガーディアンの存在は、魔術の新の道を開くのかもしれない。科学で魔術の分を補えないのならば、他の方法でアンダープラネットとつながるしかない。
そのために、俺はここに居る。

「いみわかんねぇよ」

ぼそりと響いた言葉。水面が見える。赤黒い色だ。しかし、俺はこの光景を見ることができないはずなのだ。目は閉じている。
ならばここは何処だ。自分の心臓のすぐそばか。
俺は、もう一人いる。体の中に、獣に近い男をもう一人飼っている。てなづけられていない。
だがしかし、戦闘好きの犬は俺に変わって戦ってくれる。だから俺は目を閉じている。獣の鼓動を鼓膜に感じながら。

「おっせぇ!」

獣が叫ぶ。容赦なく俺の体を使い、その本能に従い行動。筋肉が追い付かない。しかし巧みに操る。
本当にこの体は俺の物か。知らない。
俺は、二重人格者だ。しかも、二人とも自覚がある。獣は、俺が作り出した人格だと知っている。受け入れている。不必要になったら消される人格だと分かっている。
それでも戦う。奴は獣だ。
それが、この少年以上なのかは知らない。今にわかる。
実験開始だ。
どちらが先に、攻撃をやめるか。


〜つづく〜


百十一話目です。