複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.380 )
日時: 2013/06/13 21:08
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



104・Red resists red.


あたまがいたいんだ。

お父さん。
お母さん。

あたまがいたいんだ。
ずきずきするんだ。

あの夜、何があったんだっけ。
寒かったよね。
妙に寒かったよね。

みんな、冷たかったね。
なんでだっけ。

お父さんとお母さんのために、生きないといけないんだ。

生きるために、忘れないといけないんだって。
隠さないといけないんだって。
お母さんとお父さんが、いった。
教えてくれたんだ。

このことから、逃げなさい。

その言葉と、この色を私に残して。

考えてはいけないのだ。
だからやめた。
何時まで逃げるのか。私はそもそも、何から逃げているんだ。

黙っていたが、急に耐え切れなくて、頭をからっぽにしたくて、別のことを考えたくて、私は柵に手をかけて舞台を見下ろした。

そこには私のことを考えてくれる人が居る。
久しぶりに手にいれた。私の居場所。私が居たいと思える場所。
怖かった。でも覚悟を決めた。大丈夫だ。私はここに居たいから。だから私は、ここから逃げ出さないと。

燕の跳躍は高い。それに追いすがるわけでも無い。レジルは、着地の位置、タイミングを予想してそこに足を滑り込ませ、すくう。
バランスを崩しかけたがすぐに修正して、空中で一度回転して両手を持つ会再び着地。襲い掛かるレジルのけりの郷愁に慌てて対処するも負傷。
距離を置こうとするがレジルはそれを許さない。
築に見せかけた右手の軌道を狂わせ、ほとんど無抵抗に近い燕の胸ぐらをつかんで引き寄せて頭突き。吹き飛ばすと同時によろけた太ももに足をかけ、押し倒す。

「っ、つよ……」

思わず口を両手で包む。

燕は強かった。動きが早く、迷いがなく、少々短調ではあるが思い切りのあるその攻撃は確かに常人ではなかった。
しかし、レジルの前では歯が立たない。

彼らの動きが止まる。いったい、何の話をしているのだろうか。ここからでは全く聞こえない。燕の表情すらもよくわからない。


 + + + +


嫌な感じ、ではない。
妙な感覚だ。

燕に会った時に感じたのはそれだった。
混ざり合った、不確かだが、確かにここに存在する魂。力強く、明るい魂だ。
それを感じていたからなのか私らしくもなく油断していたのかもしれない。

「おい、燕は大丈夫なのか!?」

カーネイジ・マーマンの一人である銀が声を上げている。
ここに居る人間が同じ目的なのなら仲間だと考えているのかもしれない。
そうおもうのなら、少し甘い。世界を知らない。人を知らない。人間は恐ろしい。
今までジャルドと一緒に行動してきたが、一度も人間の見本というものを見たことがない。


〜つづく〜


百十四話目です。