複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.383 )
日時: 2013/06/16 11:34
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)



115・The reason to survive.


黙り込んでいる。燕には珍しいことかもしれない。私は良く人を観察してしまう。それが癖になってしまっている。
燕なら大丈夫だ。たくさん人間を見てきたが、ここまで力強く前に進む意志が強い人間は見たことがなかった。だから大丈夫。

私も相当来ているみたいだった。
変わったのだ。
人が変わってきている。世界とともに、人が変わってきている。
誰のせいだ。なんのせいで。
私にはわからない。
調べる必要がある。この世界で生きなくてはいけない。私は生き延び、そしてジャルドに恩返しをしなくてはいけない。
それが結局、春海のためになるとしても、それでも私に広い世界を見せてくれた。私が今ここに居るのはジャルドのおかげで、そしてジャルドのせいだ。

生き残る。ここに居る人間のすべての願い。意志。
これだから、人間は。

「大丈夫だ。あいつには帰る場所がある」

ライアーの瞳は真っ赤だ。
美しくそして力強い。何かに縋らないと生きていけないようだ。信じないと自分の意思を保てない。
ライアーは強いが上に孤高で、雪羽という人間から一人ではない世界を手に入れた。だから、弱い部分も出てきてしまったのだろう。
それが、正しくないなんて一言にいうわけにはいかない。
立っている。彼らは自分の足で立っている。だけど私はジャルドに寄生して生きているのだ。

燕の帰る場所。それはレドモンの場所。
あそこに、燕の生きる理由が負けられない理由がある。
燕という光がなければレドモンは闇にのまれてしまうだろう。
心の闇に付け込んでくるアンダープラネットも確認されている。彼女がアンダープラネットとリンクできればそれは魔術界にとっての革命だが、それでも。

それでも、なんだ。
彼女はレドモンのままでいてほしいと、そう思っているのか。知り合い程度の中でも、負けてほしくないと思っているということか。
私も変わった。
こんなに穏やかな気持ちでいられる。
みんなが戦ってくれている。
雪羽からびりびりと伝わってくる嫌な感じ。
彼女が抱えている、変な感じ。あの正体を突き止めないと。世界と人間の変動に関係しているかもしれない。
みんななら、負けない。
私が治す。
癒しの魔術は苦手だけど、でも私も負けていられない。
やってやる。
やってやるんだ。
じゃないと、私がここに居る意味がない。

「カンコ。側に」

頷いて、まだ体力が回復しない彼の側に立つ。

彼の側に居よう。
私は最後まで彼の側に居たい。
彼の手をつかんで、手の甲をおでこにあてる。

「ジャルド、」

私たちの帰る場所は、二人の間だ。
私たちの生きる意味も、ここにある。


〜つづく〜


百十五話目です。