複雑・ファジー小説
- Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.384 )
- 日時: 2013/06/26 20:01
- 名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)
116・One more to share.
ああ。
わかっている。
おれは、負けてはいけない。
負けないと思っていた。舐めていた訳じゃない。でも今の自分なら何でも出来るような気がしていたんだ。過信だった。
いろいろなところが痛い。痛いっていうのは、ちゃんと生きている証だ。
親方のげんこつ、痛かったなぁ。最後、親方はいたかったのかなぁ。どうなのだろうな。
おれが死んだ時、またあったら教えてもらおう。後、おれを弟子にしてよかったかなって。
おれは親方と出会えて、良かったよ。今、こうしておれがおれでいられるのも、全部全部親方のおかげで。
おれは、弱いかもしれない。
今もこうして、おれに馬乗りになっている男の顔すら、ちゃんと見られないけれど。
でも、生きているから。痛いし。
この痛みが消えたら、おれは終わりだ。
痛みがなくなるときがある。
それは、おれの汚い血が騒ぐとき。
おれの父親の、ビーストの血液。
人間としての理性が消え、本能のままに行動していると、痛みは快楽に変わる。自分の体がとても熱くなって、動いていないと落ち着かなくなる。
そうはなりたくない。そうなると、自分を見失って、怖くなるから。自分という存在が分からなくなるから。
ただでさえ、おれは不安定なのだから。
「燕、か。誰からもらった名前だ」
「お母さんだよ、決まってんだろ」
「いいや、決まっていないね。少なくともここに居る人間にとっては当たり前のことじゃあねぇからな。なぁ、俺様の名前を教えてやろうか」
意味深な言葉に、バカなおれは頭が混乱してしまった。
口角がゆがむ。痛みで元から歪んでいたけれど、もっとだ。
おれは身動きができずにいた。
おしゃべりしてくれるなら、それでいい。回復できるかもしれない。
おれは人間と体のつくりが違う。
少しだけ、分かった。同じにおいだ。カーネイジ・マーマンの連中。
変な物が混ざっている。完璧じゃない。美しくない。欠けている。いや、多すぎる。
「は? レジル、だろ」
「違うから言っているんだよ。俺様はレジルじゃねぇ。あんな軟弱野郎と一緒にするな」
発言を間違えたのか、レジルじゃないレジルはおれの喉元に爪をくいこませた。
痛く、ない。おかしい。血の気が引いた。
ぷつりと皮膚が切れて、血がにじんで来る。
赤い玉、それは大きくなって、喉を滑り落ちていく。そしてそれと同時に、視界に絵の具が滲んできた。じわっと広がる、緑色系統の絵の具。この現象は。喉が熱い。自我が消えそうだ。
足の指に無意識に力が入る。
〜つづく〜
百十六話目です。
おひさしぶりっつ。