複雑・ファジー小説

Re: 赤が世界を染める、その時は。【300話突破】 ( No.395 )
日時: 2013/07/31 21:43
名前: 揶揄菟唖 ◆bTJCy2BVLc (ID: ae8EVJ5z)

119・Mind goes wrong and dances off its head.


なかなか、似合ってねぇか。

おれに、きいたんだよな。
似合っているに決まってんじゃないか。でもさ、雷暝に好き勝手飾り付けられているあの人なんて、ちょっと心が痛いんだよ。
あの人は飾りなんかじゃない。そこに居るべきじゃない。おれたちの側に居るべきなんだ。そう、こんなところに居るべき人じゃない。
だから、おれは頑張らないと。

「無事、そうか」

言葉に出されると、ほっとする。
汚されていないか、とか、そんなちょっと大人っぽいことが浮かんで頭の中を真っ白にしたかった。できなかった。

つぎからつぎへと、へんなことがあたまにうかんでくる。
かあさんのこと。むかしのことか。おれのこと。いまのこと。おれのなかの、なにかのこと。
何かって、決まっている。ビーストのこと。
でも、変な感じなんだって。さっきから、体がいつもより熱い。目的のことが頭をぐるぐるとまわる。

このひとをたすけないと。
それがおれの、役目だから。

「息が荒いぞ。瞳孔が変だ。人間の要素が消えてきているな」

細かく、今のおれを説明してくれる。レジルの中のレジル。

おれ、確かに変な気分だ。どんどん心拍数が上がっていく。自分の中で血液が運ばれていくのが分かるのだ。心臓がうるさい。鼓膜がけいれんしている。音が上手く聞き取れない。口を閉じることができない。口から涎が垂れて、レジルの中のレジルの鎖骨あたりに一粒垂れた。

「ahaa,aaaa?」

焦点が合わない。けど、知るか。そんなもん、要らない。

おれ自身が居れば、おれは戦える。

「言葉もわからないのか?」

腹に衝撃。吹き飛ばされるわけがない。しかし少しだけ力が緩んだ。殴られたのか、いや、彼がいきなり体に力を入れたのだ。
咄嗟に力を込めるが遅い。
ぼやけた視界に光。刃物。銀色だ。右手で受け止める。自分の血液が出てくる。色を確認できない。
おれの血なんかに、興味は無い。

「もう、いいか。始末するよ、レジル」

ぼそりと呟いた声はちゃんときこえた。
自分の中の自分に語りかける声。

正気か、こいつ。

そういえば、おれも、正気じゃねぇわ。

正気なわ、け、ないじゃあああああああああああん?

「ahaHAHAAAAHAHA!」

口から笑いが止まらない。血の味がする。これ、味か。
まだおれ、味が分かるんだ。

おれの高笑いが響く。
気圧されているのか、どうか。それすらも確認できない。余裕がない。

倒す。倒す。
この目の前の白衣の男を。
おれの力が緩んだすきにおれの拘束から逃げたコイツを。

倒せ。


〜つづく〜


百十九話目です。